マルチモーダルAIの動画解析が1時間30円台へ|内見動画活用の3論点

マルチモーダルAIの動画解析が1時間約30円、音声1時間1円台に。Qwen3.8-Omni-Flashの価格を不動産実務で試算し、内見動画と通話録音の活用と個人情報の線引きを3論点で解説します。

会議テーブルを囲む経営メンバー

Qwen が2026年9月19日、動画と音声を同時に処理するマルチモーダルAIを大幅な低単価で公開しました。

動画1時間あたり約0.20ドル、音声1時間あたり0.01ドル未満。The Decoder が報じた Qwen の新モデルの価格表は、内見動画や電話接客の音声をAIに読ませる費用が、実務で無視できる水準まで落ちたことを示しています。これまで「面白いが単価が高くて回せない」と見送られてきた動画・音声のAI活用が、今週から検討対象に変わります。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が、不動産実務の視点で読み解きます。

Qwen3.8-Omni-Flash と Gemini 3.8 Flash のマルチモーダルベンチマーク比較グラフ

何が起きたか:動画1時間30円台、音声1時間1円台という価格

結論から言えば、動画・音声をAIに処理させる原価が、これまでの想定より一桁下がりました。公開されたのは Qwen3.8-Omni-Flash で、Qwen としては初のAIエージェント向けマルチモーダルモデルです。音声と映像を同時に受け取って推論し、動画の編集や短尺クリップの翻訳、長尺コンテンツの要約といった作業を、自分でツールを呼び出しながら進めます。扱える文脈は100万トークンに達します。

価格は入力が100万トークンあたり0.15ドル、出力が0.47ドルです。Qwen の試算では、音声入力は1時間あたり0.01ドル未満、720pの映像に音声を付けて毎秒1フレームで読ませた場合が1時間あたり約0.20ドルとされています。比較対象として挙げられている Gemini 3.8 Flash は導入価格で入力0.75ドル、出力3.75ドルで、しかも2027年1月1日に倍額となる予定です。入力で5分の1、出力で8分の1という開きになります。

仮に1ドル150円として換算すると、動画1時間が約30円、音声1時間が約1.5円です(為替は変動するため実勢レートは要確認)。ただしこの数字は入力側だけで、要約文や台本を書き出す出力トークン分は別途かかる点に注意が必要です。とはいえ1件の要約を2,000トークン出力しても0.001ドル程度で、コスト構造は入力側が支配的です。なお、Gemini 3.8 Flash と同等という性能評価は Qwen 自身の発表に基づくもので、第三者による再検証は要確認です。

提供経路は Qwen Studio、Qwen Cloud、および Alibaba Cloud Model Studio のAPIです。あわせて公開された Qwen-MM-Plugins は、動画編集、話者の識別、PDF形式の動画ノート作成、再利用可能なワークフローを Claude Code や Gemini CLI などのエージェントに追加します。カメラとマイクでリアルタイムに対話する Qwen-Live Harness も同時に出ています。

不動産実務でいくらになるのか:内見動画と通話音声の試算

不動産会社にとって効くのは、単価そのものより「月額でいくらか」です。賃貸仲介が反響対応の一環で撮っている内見動画を1件10分とすると、1件あたりの入力コストは約0.03ドル、日本円で5円前後です。月100件撮っている店舗なら月500円程度で、全件の文字起こしと要約、設備の読み取りまで機械に回せる計算になります。物件紹介文の下書きや、SUUMO やアットホームへの入稿前チェックにそのまま使える素材が、実質ほぼ無償で出てくるということです。

通話音声はさらに安く、1時間あたり0.01ドル未満です。月200時間の入電を全部読ませても2ドル未満、日本円で300円に届きません。誰がどの物件について何を聞いたか、どの条件で折り合わなかったかを全件で拾えるようになります。話者識別のプラグインが公式に出ているのは、反響対応の会話から担当者の発言と顧客の発言を分けて集計したい賃貸管理・仲介の現場にとって実務的な意味があります。電話対応そのものをAIに担わせる論点は、Gemini 3.8 Live で不動産の電話対応を考える記事でも整理しています。

映像側では、内見動画の尺の詰めやテロップ設計まで含めた制作フローが現実的になります。動画に音楽を載せる工程については物件動画のBGM生成を扱った記事を参照してください。制作単価が下がるほど、勝負どころは「どの物件をどの順で動画化するか」という編集方針に移ります。

初動アクション:安いから使う、ではなく3つの順序で入る

第一に、既に溜まっている素材から始めます。過去半年の内見動画と通話録音のうち、成約に至った案件と失注した案件を各20件ほど選び、要約と論点抽出をAIに通します。月数百円の原価で、自社の勝ちパターンと失注理由が言語化されます。新しい撮影ルールを作る前に、手元の資産を棚卸しする順序が費用対効果で最も高くなります。

第二に、個人情報の線引きを先に決めます。内見動画には入居希望者の顔と声が、通話録音には氏名・勤務先・年収が入ります。これを海外事業者のAPIへ送る運用は、個人情報保護委員会が所管する個人情報保護法上の第三者提供および外国にある第三者への提供の論点に直結します。取得時の利用目的にAI解析を含めているか、越境移転の同意または体制整備の要件を満たしているかを、社内で確認してから通してください。顔と氏名を落としたうえで解析する、社内での用途に限定するなど、入口で絞る設計が現実的です。

第三に、モデル選定を単価だけで決めないことです。価格が一桁違えば乗り換えたくなりますが、日本語の固有名詞や間取り表現の精度、可用性、データの保存方針は別問題です。少数の実案件で並走させ、自社の基準で比べる手順はAIベンチマークと選定基準の記事にまとめています。安い選択肢が増えたときこそ、比較の設計が成果を分けます。

まとめ

動画1時間30円台、音声1時間1円台という水準は、内見動画と通話録音のAI解析を「予算を取る案件」から「今月試せる作業」に変えます。まずは過去素材の棚卸しから入り、個人情報の線引きを先に決め、そのうえで複数モデルを自社基準で比べる。この順序を守れば、価格競争の恩恵だけを受け取れます。

参考文献

※不動産のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社の不動産事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://fudosannochikara.jp/contact/

引用元: The Decoder


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)