不動産の決済詐欺対策|米2.7億ドル被害と2027年本人確認改正3論点

米フロリダのタイトル会社が本人確認と送金詐欺対策を全決済に統合。不動産詐欺2.7億ドルの実態と、2027年4月の犯収法改正でICチップ読み取りが原則化する日本側の3論点を解説します。

不動産の決済詐欺対策|米2.7億ドル被害と2027年本人確認改正3論点

決済詐欺とは、不動産取引の送金先を偽装して代金を奪う詐欺のことです。

米国フロリダ州の大手タイトル会社グループが2026年9月17日、本人確認と送金詐欺対策、決済時の顧客連絡を1つのワークフローに統合し、自社が扱う全決済に適用したと発表しました。単体のセキュリティ製品を足すのではなく、決済業務そのものに検証を組み込んだ点が今回の要点です。日本の不動産事業者にとっても他人事ではありません。犯罪収益移転防止法の施行規則改正により、2027年4月1日から本人確認の方法が大きく変わり、宅地建物取引業者も対象になるためです。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が、日本の実務に照らして解説します。

詐欺対策を単独のツールから決済ワークフローへ移した

今回の発表の核心は、詐欺対策を独立した工程ではなく決済フローの一部にしたことです。HousingWireによると、Florida Agency Network(FAN)は決済セキュリティ企業CertifIDの利用範囲を広げ、本人確認、既存ローン返済先口座の検証、送金詐欺の防止、決済中の顧客連絡を1つの流れにまとめました。FANは、この展開によって自社が実施する全ての決済に送金詐欺対策が直接適用されると説明しています。

背景にあるのは、決済業務の担当者が増員なしに案件数の増加を求められている構造です。CertifIDの最高経営責任者Tyler Adamsは「詐欺の手口は、多くの会社が追いきれない速さで変化している」と述べています。FANの最高技術責任者Jay Robertsは、これまで本人確認と顧客連絡が別々のシステムに分かれていたこと自体が課題だったと振り返り、統合によって担当者が進捗確認に追われる時間を減らせるとしています。

数字で見ると危機感の理由が分かります。米連邦捜査局のインターネット犯罪苦情センターがまとめた2025年年次報告書では、不動産関連詐欺の申告が12,368件、被害額が約2億7,510万ドルに達しました。決済の送金を狙うビジネスメール詐欺は24,768件で約30億4,000万ドル、1件あたりの平均被害は12万ドルを超えます。さらに同報告書では、AIに言及した申告が22,000件を超え、被害額は8億9,300万ドル超と集計されています。生成AIが官公庁や経営者を装う文面を短時間で量産できるようになったことが、手口の高速化につながっています。

日本では2027年4月に本人確認がICチップ読み取り原則へ

日本の不動産事業者にとっての最大の論点は、本人確認の方法そのものが法令で切り替わる点です。宅地建物取引業者は犯罪収益移転防止法の特定事業者にあたり、取引時確認と記録の保存、疑わしい取引の届出の義務を負っています。この本人確認方法を定める施行規則が段階的に改正され、TMI総合法律事務所の解説によると、2027年(令和9年)4月1日から全面施行されます。

改正の方向は明確で、書類の複写や画像情報を用いる方法が原則として廃止され、本人確認書類に格納されたICチップの読み取りが原則になります。これまで広く使われてきた、運転免許証の外観写真と本人の自撮り写真を送信して照合するeKYCの手法は、原則として使えなくなります。非対面だけの話ではありません。対面でも、写真付き身分証を目に見える形で確認するだけでは足りず、ICチップの読み取りが求められる方式に変わります。

理由は米国の事情と重なります。偽造された運転免許証やパスポートが詐欺に使われる事例が目立ち、複写や画像だけでは書類の厚みや質感を確認できないという課題が指摘されてきたためです。遠隔地の物件売買や法人取引でオンライン完結の本人確認を採用している事業者ほど、システム改修と社内規程の見直しが必要になります。施行まで残り約1年半で、eKYCベンダーの対応時期しだいでは自社の準備期間はさらに短くなります。AIを業務に組み込む際の個人情報の扱いは、ChatGPTの人間レビュー設定と不動産の個人情報管理でも整理しています。

今週から着手できる初動は4つ

結論として、規制対応とツール整備は同時に進めるのが現実的です。法令対応を待ってから詐欺対策を考えると、改正までの期間に手口の変化へ追いつけません。

一つ目は、送金先の変更連絡に対する社内ルールの明文化です。メールで送金先口座の変更依頼が届いた場合、そのメールに返信して確認するのではなく、契約書に記載された登録済みの電話番号へ折り返して確認する手順を、書面で定めます。米国の被害の多くはこの一手間で止まっています。

二つ目は、利用中のeKYCサービスがマイナンバーカードの公的個人認証やICチップ読み取りに対応する時期の確認です。ベンダーの回答が「検討中」であれば、代替手段の検討を同時に始めます。三つ目は、本人確認記録と取引記録の保存フローの点検です。改正後は確認方法が変わるため、記録項目と保存期間の運用を先に棚卸ししておくと移行が軽くなります。

四つ目は、AI生成の偽装メールや音声を前提にした社内訓練です。役員や取引先を装った文面は、日本語の不自然さで見抜く方法が通用しなくなっています。判断を担当者の勘に委ねず、金額や送金先の変更を伴う依頼は例外なく別経路で確認するという手順に落とし込むことが有効です。AIによる書類審査の精度と証跡の残し方については、AI書類審査とエビデンスの残し方もあわせてご覧ください。

まとめ

米国では不動産関連詐欺の被害が年間約2億7,510万ドルに達し、決済業務に検証を組み込む動きが進んでいます。日本でも2027年4月に本人確認がICチップ読み取り原則へ切り替わり、宅建業者は対象事業者です。論点は、送金先変更の確認手順、eKYCの改正対応時期、記録保存フローの3点です。まずは送金先の口座変更に対する社内ルールを1枚の文書にするところから始めるのが現実的です。

参考文献

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引用元: HousingWire


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)