米CRMLSのCEOが、不動産業界のAI軽視に警告を発しました。
カリフォルニア州の物件情報ネットワークを束ねる California Regional MLS(CRMLS)のCEOであるアート・カーターが、2026年8月5日付のHousingWireのインタビューで、業界がAIに十分な注意を払っていないことを「この業界における最大の失望のひとつ」と語りました。あわせて、今後3〜5年のうちに物件情報の非公開化をめぐる新たな訴訟が起きるとも予測しています。この2つは、日本の不動産事業者にとって別々の話ではありません。物件情報をどこまで正確に、どれだけ速く市場に出すかという運用が、そのままAI活用の土台になるからです。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。

MLSのトップが指摘した、業界の死角は「AIを見ていないこと」
カーターの主張は、AIそのものより、業界の注意配分がずれていることに向けられています。手数料訴訟や制度変更といった目先の騒がしさが、本来もっとも見るべき変化からブローカーやエージェントの目をそらしている、という指摘です。多くの事業者は大規模言語モデルを片手間で触っているだけで、資本市場でSaaS企業の評価が下がりAI企業が新しい寵児になっている流れを直視していない、とも述べています。
一方でカーターは、AIが仲介そのものを消し去るという見方は取っていません。ベンチャーキャピタリストからエージェント不要論を聞かされたものの、住宅の売買は多くの人にとって生涯で最大の取引であり、人が介在する必然性は残ると考えています。「AIは人間の相互作用を置き換えるのではなく、強化するものになる」というのが本人の言葉です(HousingWire)。CRMLS自身も会員向けにAI連携ツールを構築中で、AIを敵ではなく業務の増幅装置として位置づけています。
もうひとつ、経営者として見逃せない発言が訴訟予測です。カーターは、非公開の物件情報ネットワークや、消費者から情報の一部を見えなくする動きに対する批判が強まっており、今後3〜5年のうちに訴訟が表面化すると考えています。米国の仲介手数料をめぐる集団訴訟(Sitzer/Burnett)の教訓が業界に十分共有されていない、という危機感が背景にあります。彼が繰り返し語る「50社たどってようやく市場の50%に届く」という分散した市場構造は、ブローカー同士が協調して情報を出し合う仕組みなしには成立しません。情報を囲う方向に振れたときの反動は、そのまま法的リスクになるという読みです。
日本のレインズ運用は、すでに行政から精度を問われている
日本に置き換えると、この論点は抽象論ではなく、レインズの登録期限と入力精度の話になります。宅地建物取引業法により、専属専任媒介契約は媒介契約締結日の翌日から5日以内、専任媒介契約は7日以内のレインズ登録義務があります(不動産会社の休業日とレインズ休止日を除く)。業務処理状況の報告も、専属専任は1週間に1回以上、専任は2週間に1回以上と定められています。この枠組みは東日本レインズが媒介契約制度として公開しています。
そして日本では、この運用の実態にすでに行政の目が入っています。全日本不動産協会が2025年9月に掲載した国土交通省のお知らせでは、登録期限を過ぎて登録されていた例や媒介契約年月日の入力に誤りがあった例が一定数見受けられたとされ、期限を守らない場合は法に基づく指導等の対象になりうると明記されています。在庫情報と成約情報を正確に登録するようにも併せて求められています。カーターが米国で訴訟リスクとして語ったテーマが、日本では監督行政の指導という形で先に顕在化している、と読むこともできます。
ここがAIの話につながります。物件データの登録が遅れたり、契約日が誤っていたり、成約情報が更新されていなかったりする状態でAI分析を回しても、出てくるのは精度の低い相場観と誤った成約傾向です。レインズのデータを起点に相場や成約傾向を読む具体的な手順はレインズのAI分析で物件データを活かす手順で整理していますが、前提になるのは自社の登録運用が法定期限どおりに回っていることです。データ品質の担保は、コンプライアンス対応であると同時にAI投資の利回りを決める変数でもあります。
導入率だけ上げても差がつかない、次の一手はどこか
初動として着手すべきは3つです。順番も含めて、この順で進めるのが現実的だと考えています。
第一に、レインズ登録の遵法状況を数字で棚卸しすることです。直近3か月の専属専任・専任媒介について、契約日から登録日までの実日数を全件洗い出し、5日と7日の基準を超えた件数を出します。あわせて媒介契約年月日の入力誤り、成約後の登録漏れも数えます。ここはAIを使うまでもなく、媒介契約書の一覧と登録証明書を突き合わせれば把握できます。数字が出た時点で、AI導入より先に手を打つべき業務が見えるはずです。
第二に、AIを使う業務を、社内で名前のついた工程に紐づけることです。ツールを配って各自に任せる運用では成果が出にくいことは、米国のブローカーを対象にした調査でも示されています。導入率と生産性の伸びが噛み合わない構造については不動産エージェントのAI導入率97%と生産性ギャップで詳しく扱いました。カーターの言う「片手間で触っているだけ」の状態から抜けるには、物件概要書の下書き、追客メールの一次案、レインズ抽出データの要約といった具体的な工程にAIを固定し、担当者と所要時間を決めるところまで落とす作業が要ります。どのモデルをどの工程に割り当てるかは不動産のAIモデル選定2026の比較が判断材料になります。
第三に、情報開示の姿勢を経営方針として言語化しておくことです。カーターの訴訟予測は、消費者から情報を見えにくくする運用への批判が起点でした。日本でも、レインズ登録と広告表示の整合、取引状況の適時更新は、監督行政と消費者の双方から見られています。AIで生成した物件紹介文や広告表現が誇大表示に触れないかという論点も同じ土俵にあり、線の引き方は宅建業法とAI利用のグレーゾーンで整理しています。開示と効率化を両立させる方針を先に決めておけば、現場がAIの使いどころで迷う場面は減らせます。
なお、基幹システム側の前提も動いています。AIがシステム間の違いを吸収し始めると、これまで乗り換えを阻んでいた検証コストが下がる可能性がある点はAIが不動産の基幹システムを陳腐化させる日で扱いました。レインズ運用の棚卸しは、この移行を見据えた実務の土台づくりでもあります。
まとめ
CRMLSのカーターが投げかけたのは、AIの是非ではなく注意配分の問題でした。目先の制度変更に気を取られてAIを見ていない状態は、日本の事業者にも当てはまります。まず自社のレインズ登録が5日・7日の期限どおりに回っているかを数字で確認し、そのうえでAIを特定の工程に固定する。この順番を守ることが、データ品質と業務効率の両方を同時に押し上げる最短の道筋です。
参考文献
- CRMLS CEO Art Carter sees more industry litigation ahead, AI blindspots(HousingWire, 2026-08-05)
- 媒介契約制度(公益財団法人 東日本不動産流通機構/東日本レインズ)
- 国交省「媒介契約締結後はレインズシステムに登録を」(公益社団法人 全日本不動産協会, 2025-09-19)
- 国土交通省が定めた標準媒介契約約款(PDF)
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引用元: HousingWire
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)