Google は2026年7月28日、Gemini API のマネージドエージェントに、ツール実行を事前に止められる環境フックを追加しました。
AIエージェントに物件データや契約書を触らせるとき、現場でいちばん怖いのは精度ではありません。「やらせてはいけない操作を、勝手にやられること」です。今回の更新は、その一点に効きます。エージェントがファイル書き込みやコード実行に進む直前に自作スクリプトを割り込ませ、条件に合わなければその呼び出し自体を止められる。宅建業法や個人情報の取り扱いという、動かせない制約を抱えた不動産業務にとっては、精度向上のニュースより実装インパクトが大きい類の変更です。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入支援100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。
実行前に止める、実行後に検査する。フックで何ができるか
今回追加された環境フックは、エージェントがサンドボックス内でツールを呼ぶ「前」と「後」に、自前のスクリプトを差し込む仕組みです。Google公式ブログによると、環境に .agents/hooks.json を置くだけで、ランタイムが pre_tool_execution と post_tool_execution の各イベントでハンドラを実行します。対象ツールの指定には正規表現が使えるため、コード実行とファイル書き込みだけを狙い撃ちすることも、すべてのツール呼び出しを一律で拾うこともできます。
実務目線で効くのは、拒否したときの挙動です。事前フックのスクリプトが {"decision": "deny", "reason": "..."} を返すと、そのツール呼び出しはスキップされ、拒否した理由がモデルのコンテキストに渡ります。単に処理が落ちるのではなく、なぜ止められたのかをエージェント自身が受け取って書き直しに向かう。ここが、従来の「出力を人が目視して差し戻す」運用との決定的な違いです。ハンドラはコマンド実行型のほか、外部エンドポイントへ直接POSTするHTTP型もサポートされています。
同時に、運用まわりも整理されました。マネージドエージェントの既定モデルは Gemini 3.6 Flash に切り替わり、既存利用者はコード変更なしで次の実行から反映されます。暴走対策として max_total_tokens で入力・出力・思考トークンの合計に上限を設けられ、上限に達すると処理は安全に一時停止して status: "incomplete" を返します。環境の状態は保持されるため、直前の実行IDを渡して続きから再開できます。加えてcron形式のスケジュール実行、サンドボックスを一覧・削除できるEnvironments API、無料枠プロジェクトでの利用開放が並びました。サンドボックスは7日間のTTLで自動的に消えます。
海外の先行事例も紹介されています。投資銀行業務にAIを使うOffDealは「フック導入前は、サンドボックスがリモートにあるため検証コードを走らせる場所がなかった」と述べており、実行後フックで資料に載せるロゴ画像の品質検査を自動化しています。1つの資料に30個以上のロゴが並ぶ業務で、承認済みファイルだけを通す仕組みを組んだかたちです。
追客メールと個人情報。不動産業務でガードレールを書くならどこか
日本の不動産事業者にとっての本題は、モデルの賢さではなく「止めどころをコードで書けるようになった」という点にあります。想定しやすいのが追客メールの自動生成です。エージェントに文面を書かせて送信まで任せる場合、事前フックで送信直前の本文を検査し、利回りや将来価格を断定する表現、最大級表現、根拠のない優良誤認につながる言い回しが含まれていたら送信をブロックする。景表法と宅建業法のチェックを、人の目視ではなく仕組み側に持たせられます。宅建業務でAIを使う際の線引きは、宅建業法とAI利用のグレーゾーンで整理しています。
もうひとつは個人情報の外部流出防止です。入居者名や連絡先を含むファイルを外部APIへ送る処理、あるいは顧客リストを書き出す処理を、事前フックで機械的に遮断する。AIの判断に任せず、正規表現とルールで先に塞いでおく発想です。エージェントを社内システムへつなぐ設計そのものについては、MCPで不動産テックの業務システムを接続するも参考になります。
スケジュール実行は、賃貸管理の定型業務と相性がよさそうです。毎朝サンドボックスを再利用しながら、前日の反響一覧を整形する、空室と募集条件の差分をレポートする、といった処理を無人で回す。同じ環境が使い回されるので、前回の作業ファイルが残ったまま次の実行に入れます。エージェントで業務を自動化する全体像はAIエージェントによる不動産業務の自動化で扱っています。
初動でやるべき3つの勘所
第一に、伸ばしたい機能ではなく「止めたい操作」から書き出すことです。顧客情報を含むファイルの外部送信、送信済みメールの上書き、契約書原本の書き換えなど、起きたら取り返しがつかない操作を先にリスト化する。ここが決まらないまま自動化を広げると、後から止め方を足すことになり、結局は人の確認が残ります。
第二に、監査ログの置き場所を決めることです。実行後フックはHTTP型で外部エンドポイントへ結果を送れるため、いつどのツールが何を触ったかを社内のログ基盤に落とせます。宅建業者は取引の記録保存を求められる立場にあり、AIが介在した工程の説明可能性は早めに設計しておくほうが安全です。
第三に、上限とスケジュールをセットで設計することです。無人実行を増やすほど、想定外のループでトークンを消費する余地が広がります。max_total_tokens を先に決め、上限に達したら止まって再開できる形にしておく。費用の見積もりは公式の料金ページで最新値を確認してください。
まとめ
今回の更新の要点は、AIエージェントの品質担保が「出力を人が見る」から「実行を仕組みで止める」へ移り始めたことです。不動産業務は法令と個人情報の制約が重い分、この方向の機能追加が実装の解像度を上げます。まずは自社で自動化させたくない操作を3つ書き出し、そこから逆算して設計するのが現実的な第一歩です。なお本記事の仕様は2026年8月6日時点の公開情報にもとづくもので、実装前に公式ドキュメントで最新の挙動を確認してください。
参考文献
- Google The Keyword|Gemini API Managed Agents: 3.6 Flash, hooks, and more
- Google AI for Developers|Agent hooks
- Google AI for Developers|Managed agents in the Gemini API
- Google AI for Developers|Pricing for agents
著者:齋藤竹紘(株式会社オルセル 編集長/宅建業免許 東京都知事(1)第113520号/AI導入支援100社超/EC支援19年5,000社超のノウハウを不動産×AIに横展開)
※不動産のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社の不動産事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: Google The Keyword
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)