MacPawとLiquid AIが2026年8月5日、Mac上で完結するローカルAIの共同開発で提携しました。
入居申込書に書かれた氏名や年収を、生成AIに入力してよいのか。不動産の現場で繰り返し浮上するこの問いに対して、モデルを手元の端末で動かすという答え方が現実味を帯びてきました。MacPawとLiquid AIは2026年8月5日、Macのローカル環境で動くAI技術スタックを共同開発する長期の戦略提携を発表しています。個人データを端末の外に出さず、インターネット接続がない状況でも中核機能が動くことを設計目標に据えた点が特徴です。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が、この提携をオンデバイスAIと不動産の個人情報リスクという視点から3つの論点に整理します。

提携の中身はモデル・推論エンジン・メモリ層の3層構造
今回の提携は、ローカルAIを成立させる3つの層を分担して埋める取り組みです。PR Newswireで配信された発表によると、Liquid AIが提供するのはLiquid Foundation Models(LFM)と呼ばれる基盤モデルで、これをmacOS上のAIアシスタント用途に合わせて設計・調整します。MacPaw側が持ち込むのは、オンデバイス推論エンジンのElixと、対話をまたいで文脈を保持するメモリ層のMnemosです。モデル、実行環境、記憶の3層がそろって初めて、手元で動くアシスタントが実用になるという構図です。
最初に成果が反映されるのは、MacPawがmacOS向けに提供しているAIアシスタントのEneyで、時期は年内が見込まれています。中核の処理はApple silicon上のElixを通じてローカルで走らせ、クラウドのモデルは、そちらのほうが適している場面に限って併用する設計とされています。Eneyについては、2025年12月時点でローカルモデルの採用によって応答が高速化したと9to5Macが報じており、今回の提携はその路線をモデル開発の上流まで広げたものと読めます。技術的な背景はMacPawのEney技術解説や、MacPaw Researchが公開している論文群からも追えます。
Liquid AIはMIT発のスピンアウト企業で、同社のモデルはすでにメルセデス・ベンツ、Insilico Medicine、Shopifyの3社に導入されていると発表文は説明しています。「効率的で、プライベートな、オンデバイスのLFMを何百万人ものMacユーザーに届ける」という共同創業者兼CEOのRamin Hasaniのコメントも公開されています。将来的には、この基盤がMacPawのソフトウェア配信サービスであるSetappを通じて多数のMac開発者に開放される可能性にも触れられていますが、時期や条件は明示されていないため要確認です。
不動産事業者にとっての3つの論点
論点は、個人情報の入力可否、オフラインでの実務、そして端末環境の3つに整理できます。いずれも宅建業の現場と直結します。
1つ目は、個人情報を含むプロンプトの扱いです。個人情報保護委員会は2023年6月2日付の生成AIサービスの利用に関する注意喚起で、個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合、特定された利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認する必要があると示しています。宅建業者が日常的に扱う入居申込書、本人確認書類、年収や勤務先、緊急連絡先は、いずれも慎重な取り扱いが求められる情報です。推論が端末内で完結するなら、そもそも外部への送信という事象が発生しません。送信が起きないことと、利用目的の特定や社内規程の整備が不要になることは別問題ですが、検討の前提は明確に変わります。AIのアクセス制御を巡る論点はAI関連侵害の92%がアクセス制御不備という調査の記事でも整理しています。
2つ目は、オフラインで動くという性質が現場業務と相性が良いことです。内見の同行中、地下の店舗、通信環境が整っていない新築現場や郊外の空室では、クラウド前提のAIは待たされるか、そもそも動きません。物件メモの整理、現地で撮った写真の仕分け、その場での文面の下書きといった軽い処理が回線に依存せず動くだけでも、営業担当の待ち時間は減ります。
3つ目は、端末環境の前提です。今回の取り組みはApple siliconのMacを対象としており、Windows端末が中心の会社にはそのままは当てはまりません。ローカルで動かす発想そのものは、オープンウェイトのモデルを自社管理の環境で動かす選択肢とも地続きです。この論点は2.4兆パラメータのQwen3.8-Max公開と契約書AIの記事で扱っています。なお、Eneyが日本語の不動産業務でどこまで実用になるかは検証されておらず、この点は要確認です。
今週やっておくとよいこと
先に手を付けるべきは、ツール選定ではなく社内の線引きです。生成AIに入力してよい情報と、入力しない情報の区分を1枚にまとめ、営業と管理の全員が同じ判断をできる状態にしておきます。氏名や勤務先を伏せた形に加工してから入力する運用にするのか、それとも顧客情報を含む処理は端末内で完結する手段が整うまで見送るのか。この判断を個人任せにしないことが出発点です。
そのうえで、業務を「クラウドに出してよいもの」と「手元で完結させたいもの」に仕分けておくと、オンデバイスAIが実用段階に入ったときにすぐ動けます。物件紹介文の作成や市況の要約はクラウドで問題ありませんが、入居審査の下書きや契約関連の書類確認は手元寄りに置く判断があり得ます。法令上の線引きの考え方は宅建業法とAI利用のグレーゾーンを整理した記事を参照してください。AIの出力は下書きであり、重要事項説明や契約の最終的な責任を宅建士が負う点は、処理がどこで走ろうと変わりません。
まとめ
MacPawとLiquid AIの提携は、Macという特定の環境の話にとどまりません。個人情報の密度が高い書類を扱う不動産業にとって、推論が端末内で完結する選択肢が増えることは、AI活用の検討範囲そのものを広げます。日本語対応や実務での精度は今後の検証待ちですが、社内で入力可否の線引きを固めておく作業は、環境が整う前から始められます。
参考文献
- MacPaw Partners with Liquid AI to Bring On-Device AI to Millions of Mac Users(PR Newswire、2026年8月5日)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(個人情報保護委員会、2023年6月2日)
- MacPaw Research — Advancing Mac-native intelligence
- The Technology Powering MacPaw’s AI Assistant – Eney(MacPaw)
- MacPaw’s assistant Eney is now faster thanks to a local AI model(9to5Mac、2025年12月10日)
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引用元: PR Newswire(FinanzNachrichten掲載)
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)