米MLSが25年ぶり全会員移行、3,500人の新基盤から学ぶ3つの論点

米国MLSが25年ぶりに3,500人規模の全会員移行を完了。Perchwell導入の3か月並行運用と135回の研修から、レインズを使う日本の不動産事業者が学ぶ3つの論点を解説します。

米MLSが25年ぶり全会員移行、3,500人の新基盤から学ぶ3つの論点

米国のBaldwin Realtorsは、約3,500人の会員が使うMLS基盤を旧来のParagonからPerchwellへ丸ごと切り替え、25年以上ぶりとなる全会員規模の移行を完了しました。

本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が、レインズ活用の視点で解説します。

MLSとは、米国で不動産会社同士が物件情報を共有して取引を成立させるための会員制データベースのことです。日本の宅建業者にとってのレインズに近い存在で、売買仲介の現場を支える基盤です。その基盤が20年以上ほぼ変わらなかったという指摘は、日本のレインズ運用に携わる方にも他人事ではありません。

何が起きたか:3,500人・135回の研修・3か月の並行運用

HousingWireによると、アラバマ州ボールドウィン郡を拠点とするBaldwin Realtorsは、約3,500人のエージェントが使うMLSをParagonからPerchwellへ移行しました。全会員が一斉に旧システムから乗り換える形の移行は、25年以上なかったと報じられています。

移行の進め方も具体的です。新旧システムを並行して動かす期間を3か月設け、会員向けに135回の研修を実施しました。そのうち60回は対面で、多くは各ブローカー事務所に出向いて行われたとされています。システムを入れ替える作業よりも、現場に定着させる作業に手間をかけた点が目を引きます。

Perchwellのブレンダン・フェアバンクスCEOは、MLSの技術について「この20年でほとんど何も変わっていない」と述べています。裏を返せば、会員が毎日使う検索、顧客とのやり取り、市況の分析といった機能が、長く更新されないまま使われてきたということです。

現場で変わるのは検索・顧客共有・モバイルの3点

記事で紹介された主な機能を整理します。

  • 買い側・売り側の双方のエージェントが使いやすい高速な検索画面
  • 買主ごとの検討をまとめ、エージェントと買主が物件に直接コメントできる「Workspaces」
  • デスクトップとモバイルで機能の差をなくす設計(市況分析や物件登録もモバイルで可能)

注目したいのはWorkspacesです。フェアバンクスCEOは、買主の物件探しがポータル、メール、メッセージ、転送リンクに散らばりがちだと指摘し、それを一か所にまとめる場だと説明しています。日本でも、お客様への物件提案はポータルのURL、LINE、メールに分かれ、後から経緯を追えないことが少なくありません。ここは国内の仲介現場でもそのまま当てはまる課題です。

日本の不動産事業者にとっての論点

ここからは当社の見解です。この記事はAIそのものの話ではありませんが、AI活用の土台という観点で重要です。生成AIで物件提案や追客を自動化したくても、元になる物件データと顧客とのやり取りが散らばっていれば、AIは十分に力を発揮できません。MLSがデータを整え、顧客との共有履歴を一本化する方向に動くことは、後からAIを載せる前提条件が整うことを意味します。

日本の実務に引き寄せると、論点は次の3つです。

1つ目は、レインズの検索や登録の使い勝手を、現場がどれだけ工夫で補っているかの棚卸しです。レインズの画面や項目を自社ツールに転記している作業があれば、それが改善余地の目安になります。

2つ目は、顧客への物件提案の履歴を一元化できているかです。担当者ごとにLINEやメールに散らばっているなら、共有用の仕組みを先に整えるだけでも引き継ぎや追客の質が変わります。

3つ目は、システムを変えるときの運用設計です。今回の事例では3か月の並行運用と135回の研修が用意されました。ツールの導入よりも、研修と並行期間の設計が成否を分けるという示唆は、自社でAIツールを入れる際にも使えます。

なお、本件は米国MLSの事例であり、日本のレインズが同様の刷新を予定しているかどうかは今回の記事からは分かりません。国内の動向は要確認です。

今後の展望・初動アクション

フェアバンクスCEOは、将来エージェントが振り返る変化は「消費者が自力で見つけられる情報を上回る優位性をMLSが与えたこと」だと述べています。業者間データの価値が、一般の物件ポータルとの差でますます問われる方向だと読めます。

初動としては、次の3点をおすすめします。まず、自社が毎週レインズで行っている作業を洗い出し、手作業の転記や集計に使っている時間を計測してください。次に、顧客への提案履歴を残す場所を一つに決めてください。最後に、新しいツールを入れる前に、並行運用期間と研修の回数をあらかじめ見積もってください。

まとめ

米国のBaldwin Realtorsは、約3,500人のMLS会員を3か月の並行運用と135回の研修を経てPerchwellへ移行しました。日本の不動産事業者にとっての学びは、物件データの基盤と顧客共有の一元化がAI活用の前提になること、そして導入成否は研修と運用設計にかかっていることです。レインズを日々使う会社ほど、自社の作業の棚卸しから始める価値があります。

参考文献

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引用元: HousingWire


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)