米国の商業不動産仲介の現役ブローカーが、不動産業者向けソフトが現場に合わない原因は担当者の努力不足ではなく設計の問題だと、2026年10月8日に寄稿しました。
本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。Propmodoに載ったこの寄稿は、ニューヨークで10年以上テナント仲介に携わる人物が書いたものです。AIそのものの話ではありませんが、AIツールの導入を検討する前に押さえるべき「道具選びの基本」を扱っており、賃貸仲介や売買仲介の現場にも置き換えられる内容です。なお、これは編集部の報道ではなく寄稿者個人の見解である点にご注意ください。
何が起きたか:できる人ほど「合わない道具」を使いこなしてしまう
寄稿の主張は明快です。腕のよい仲介担当者ほど、本来の用途と違うソフトを工夫して使いこなしてしまう。その結果、道具の側の欠陥が表に出ず、改善されないまま残る、という指摘です。寄稿では「That’s not a discipline problem. It’s a design problem.」と書かれており、運用の規律ではなく設計の問題だと言い切っています。
理由として挙げられているのは、既存のツールの多くが住宅の営業担当、販売チーム、あるいは家主を想定して作られている点です。これらのツールは、1人の相手と短期間で成約する取引を前提にしています。一方、商業用不動産の取引は、4者が関わる数か月がかりの交渉になることがあります。前提が違う道具に、現場が手作業で合わせているというわけです。
また寄稿者は、失注の原因が価格や条件ではなく「追跡の失敗」だったという経験を述べています。誰がどの条件を返答待ちか、どの資料が最新かといった情報が、表計算ファイルやメールに散らばることで、案件が静かに止まるという構図です。寄稿者は自身で仲介向けのプラットフォーム「Leasync」の共同開発に関わっていますが、記事中に同サービスのURLは示されていません。宣伝要素を含む寄稿である点は、割り引いて読む必要があります。
日本の不動産事業者にとっての論点
論点の1つ目は、日本の仲介現場にも同じ構図があることです。賃貸仲介では、ポータルの反響、内見調整、申込、審査、契約と、1件の取引に入居希望者、管理会社、オーナー、保証会社が関わります。売買仲介なら、売主、買主、金融機関、司法書士まで加わります。関係者が多く期間も長いのに、顧客管理は営業向けの簡易な仕組みで、進捗は個人の表計算という会社は少なくないはずです。ここに生成AIを足しても、土台の情報が散らばったままでは精度が出ません。
2つ目は、導入の成否が「データの土台」で決まるという点です。寄稿で紹介されている業界白書「State of AI in CRE 2026」(Re-Leased)には、示唆的な数字があります。同白書によると、調査対象のJLLの調査では意思決定者の90%がAIを試行中ですが、すべての目標を達成できたのは5%にとどまります。また、Gartnerの調査として、成功しているAI施策は失敗している施策の最大4倍をデータ基盤に投資しているとされています。いずれも商業不動産・海外の数字であり、日本の賃貸・売買仲介にそのまま当てはまるとは限りませんが、方向性は参考になります。
3つ目は、国も導入支援に動いていることです。国土交通省は2025年に、宅地建物取引業者を対象とした不動産分野のDX実証事業の参加者を募集しました。全日本不動産協会の会員向けお知らせによると、導入費と3か月分の利用料を、上限50万円(税込)まで補助する内容でした。これは2025年の募集で、すでに締め切られています。2026年度以降の同種の支援があるかは要確認ですが、デジタルツールの選定を「試してから決める」流れ自体は、公的にも後押しされていると読めます。
今後の展望と初動アクション
寄稿が勧める第一歩は、1週間かけて「案件情報が実際にどこにあるか」を洗い出す監査です。個人の表計算、LINEやメールのやり取り、紙のメモなど、現場が自然に作っている回避策は、そのまま自社に必要な機能の一覧になる、という考え方です。
日本の不動産会社なら、次の順で進めるのが現実的です。まず1週間、1件の取引について、情報が置かれているツールと転記の回数を記録します。次に、転記や確認の連絡が多い工程を3つ選びます。そのうえで、ベンダーとの打ち合わせでは「最初の100社はどんな業態の会社か」を尋ねます。寄稿者はこの質問が、そのツールが誰のために作られたかを見抜く近道だと述べています。さらにデモでは、うまく進んだ案件ではなく、途中で止まった案件や破談になった案件を題材に試してもらいます。AI機能の有無は、その後に評価しても遅くありません。
注意点として、現場の回避策は個人の頭の中にあることが多く、聞き取りだけでは拾えません。情報を扱う範囲が広がるほど、個人情報保護法に沿った保管場所と閲覧権限の整理も欠かせません。
まとめ
Propmodoの寄稿は、不動産業者向けソフトが現場に合わない原因を、担当者の努力ではなくツールの設計に求めました。数字や調査は米国の商業不動産が中心で、日本にそのまま当てはまるかは要確認です。それでも、1週間の情報の置き場監査と、止まった案件でのデモ検証は、規模を問わず今日から始められます。AIを入れる前に、自社の案件情報がどこにあるかを把握することが、結果的に最短の導入準備になります。
参考文献
- Propmodo: Dear CRE Brokers, Stop Making Bad Software Work
- Re-Leased: Level Up: The State of AI in Commercial Property Management(2026年白書・PDF)
- 全日本不動産協会: 国交省「不動産分野におけるDX推進に向けたデジタル技術・サービスの導入・活用支援(実証事業)」の募集について
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引用元: Propmodo
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)