米大手仲介ブランドの新社長が、AIは仲介営業を置き換えないと明言しました。
不動産仲介の現場でAIをどこまで任せるべきか、判断に迷う経営者は少なくありません。米国の大手仲介ブランドであるコールドウェル・バンカーのアフィリエイト部門で2026年5月に社長へ就任したメアリー・リー・ブレイロックは、30年を超える住宅不動産のキャリアを背景に、AIは営業担当の武器にはなるが人の判断を置き換えるものではないという立場を、業界紙のHousingWireのインタビューで示しました。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が、日本の宅建業者の視点で3つの論点に整理して解説します。

何が起きたか:AI不動産仲介の議論に大手ブランドが線を引いた
結論から言えば、今回のインタビューの要点は「AIが仲介営業の人数を減らす主因にはならない」という現場側からの反論です。HousingWireが2026年に開催したAIサミットでは、AIが優秀な営業担当とそうでない営業担当を選別し、結果として仲介の担い手は減るという見方が業界リーダーから示されていました。ブレイロックはこれに対し、テクノロジーとAIは営業活動にとって根本的に有用である一方、人間同士の感情を読み取りながら取引をまとめる能力をAIが持つことはないと述べ、営業担当の役割は引き続き強いという見解を示しています。
同時に、AI導入そのものには前向きです。今後のテクノロジーにAIを組み込む方針を明言し、バーチャルと対面の両方で研修を行うチームを持ち、営業担当が事業の組み立て方を学び直せる体制を差別化要因にしたいと語っています。つまり「AIを入れない」ではなく「AIを入れたうえで人の役割を再定義する」という設計です。
なお同社は、直営組織とアフィリエイト加盟店を共通の基盤に揃える「One Coldwell Banker」戦略を進めている最中で、ブレイロックはサザビーズ・インターナショナル・リアルティやHomeServices of America、バークシャー・ハサウェイ・ホームサービス・カリフォルニア・プロパティーズでの経営経験を持ちます。市況については、住宅ローン金利は今後数年で大きくは動かず6%前後で落ち着くことを期待するとし、記事掲載時点でHousingWireが示す30年固定金利は6.89%でした。富裕層向け市場は現金の厚みを背景に堅調が続くという見立ても示しています。
日本の宅建業者にとっての論点:法律がすでに「人の役割」を定義している
日本の不動産仲介にとって重要なのは、この「AIは人を置き換えない」という主張が、米国では経営判断の問題である一方、日本では法律上すでに答えが出ている点です。宅地建物取引業法第35条に基づく重要事項説明は宅地建物取引士が行うものと定められており、説明の主体をAIに委ねることはできません。根拠は宅地建物取引業法そのものです。
一方で、説明の「場」はすでにオンライン化が認められています。国土交通省はテレビ会議等を使ったIT重説について、賃貸に続いて売買取引でも2021年3月30日から本格運用を開始しており、実施マニュアルも公開されています。詳細は国土交通省のIT重説本格運用のページで確認できます。ここから読み取れる線引きは明確です。資料の下書き、物件情報の要約、想定質問の洗い出しといった準備工程はAIで圧縮できますが、説明義務を負う主体と最終的な内容責任は宅建士に残ります。
この構造を踏まえると、日本の不動産仲介におけるAI活用の投資対効果は、営業人員の削減ではなく1人あたりの処理件数と応答速度に出ます。反響対応の初動、内見前の物件比較資料、追客メールの下書き、退去や更新の定型連絡といった領域が対象です。逆に、AI査定の結果を根拠として価格を断定的に示す運用は、宅建業法が禁じる断定的判断の提供に触れる恐れがあるため避けるべきです。AI査定はあくまで参考値であり、最終的な価格判断は宅建士が行うという整理を、社内ルールとして文書化しておくことをおすすめします。
今後の展望と初動アクション:3つの論点で棚卸しする
今後の動きとして予想されるのは、AI導入の巧拙が採用と定着の差になる局面です。ブレイロックが研修体制を差別化要因に挙げたように、ツールの導入そのものより、使いこなす人を育てられるかが分かれ目になります。日本の宅建業者が明日から着手できる初動を3つの論点に整理します。
第一に、業務の棚卸しです。反響一次対応、物件資料作成、重説準備、契約書チェック、退去精算といった工程を並べ、宅建士の独占業務にあたるものとそうでないものを分けます。AIを当てるのは後者からです。
第二に、個人情報の取り扱いルールです。顧客の氏名や住所を含むデータを外部の生成AIに投入する運用は、個人情報保護法上の第三者提供や利用目的の観点で整理が必要になります。入力してよい情報の範囲と、使用するサービスを社内で限定し、ログの残し方まで決めておくと安全です。
第三に、成果指標の置き方です。AI導入の効果を人員削減で測ると現場が抵抗します。反響への初回応答までの分数、営業担当1人あたりの内見設定件数、重説準備にかかる時間といった、短縮幅が見える指標に置き換えるほうが定着しやすくなります。
まとめ
AI不動産仲介の論点は、置き換えるか否かではなく、どこまでを準備工程としてAIに任せ、どこからを宅建士の判断として残すかの線引きにあります。米国大手の社長が示した「AIは強化するが置き換えない」という立場は、宅建業法第35条という明文の線引きを持つ日本ではより実務的な意味を持ちます。まずは業務の棚卸しと個人情報ルールの整備から着手し、削減ではなく処理速度で効果を測る設計に切り替えていくことをおすすめします。
参考文献
- HousingWire・New Coldwell Banker Affiliates president speaks on AI, rates, luxury market
- HousingWire・Coldwell Banker names Mary Lee Blaylock president of affiliates
- 国土交通省・IT重説本格運用(平成29年度~)
- e-Gov法令検索・宅地建物取引業法
※不動産のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社の不動産事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://fudosannochikara.jp/contact/
引用元: HousingWire
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)