AI費用が人件費の40%に達し、Ripplingが可視化ツールを開発しました。
米国のHRソフトウェア大手Ripplingが2026年8月、社内のAI利用コストを従業員単位まで追跡する「AI Spend Console」を公開しました。きっかけは、自社のAIトークン費用が研究開発部門の人件費予算の40%に達するペースで膨らんでいたことです。AIコスト管理という論点は、これまで開発費の話として語られがちでしたが、生成AIを業務に組み込む不動産事業者にとっても他人事ではありません。月額固定のツールから従量課金のAIへ重心が移るほど、費用は使った分だけ増えていくからです。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。

AI費用は月80%で増え、社員の10〜15%が支出の60%を占めた
結論から言うと、Ripplingの問題は使いすぎそのものではなく、誰が何にいくら使い、何を生み出しているのかを誰も把握していなかったことでした。TechCrunchによれば、2026年3月の役員会でCFOのアダム・スウィエツキが示した数字は、研究開発部門の人件費予算の40%相当をAIトークンに費やすペースだというものでした。支出は前月比80%で伸びており、この傾向が続けば翌年には同部門の人件費の90%相当に達する計算だったといいます。最高製品責任者のマット・マキニスは、TechCrunchの取材に対して信じられなかったと振り返っています。
社内分析で見えてきた構造も示唆的です。同社のブログによると、従業員のおよそ10〜15%が全AI支出の約60%を生んでおり、なかには月に5万ドルを使うエンジニアもいました。原因のひとつは、どんな作業にも最新かつ最も高価なモデルを既定で選んでいたことです。同社はまずCursor、OpenAI、Anthropicの各社と支出上限を交渉し、その上でタスクに応じて適切なモデルへ振り分ける社内AIゲートウェイを自前で構築しました。
結果として、トークン支出は人件費予算比の40%から約15%まで下がりました。注目したいのは、利用量を絞ったわけではないという点です。マキニスによれば、消費量は警告が出た月の6,050億トークンに対して7月も6,000億トークンとほぼ同水準に戻りましたが、7月のトークン費用は4月の37%にとどまりました。安いモデルで足りる仕事を安いモデルに回しただけで、同じ量を使いながら費用が3分の1近くになったということです。
日本は中小企業の生成AI活用方針が34%、不動産業も例外ではない
日本の状況を数字で見ておきます。総務省の令和7年版情報通信白書(概要)によると、生成AIを活用する方針を定めている企業の比率は2024年度調査で約50%で、2023年度調査の約43%から増えました。ただし内訳を見ると大企業が約56%であるのに対し、中小企業は約34%にとどまっています。宅建業者の多くが中小規模である日本の不動産業界は、この34%側の分布に近いと考えるのが自然です。
方針が定まっていない段階でAIツールを個別に入れていくと、Ripplingが直面したのと同じ順序で問題が起きます。最初は月額数千円のチャットツールから始まり、物件原稿の自動生成、追客メールの下書き、レインズの成約データの整理といった具合に用途が増え、気づくと従量課金のAPI利用が複数走っている状態になります。定額プランなら上限は読めますが、従量課金は使った分だけ請求されるため、月次の締めまで金額が確定しません。
支出の偏りも同じ形で現れます。店舗のなかで一人か二人がAIを使い倒し、残りはほとんど触っていないという分布は、多くの不動産会社で見られるものです。これ自体は悪いことではなく、むしろ使いこなしている人材が特定できているということでもあります。Ripplingは効果的に使えている社員をAIキャプテンに任命し、社内展開の担い手にしました。導入効果の測り方については賃貸管理のAI投資対効果を検証した記事でも整理しています。

不動産事業者が今週から着手できる3つの論点
第一に、契約中のAIツールを課金形態で仕分けることです。月額固定か従量課金か、上限設定の機能があるか、上限に達したときに停止するのか超過課金になるのかを一覧にします。ここが曖昧なまま利用を広げると、翌月の請求で初めて事態を知ることになります。Ripplingが最初にやったのも、各ベンダーとの上限交渉でした。
第二に、タスクとモデルの対応を決めることです。物件のキャッチコピー案を10本出す、定型の返信メールを下書きする、といった軽い作業に最上位モデルを使う必然性はありません。一方で、重要事項説明の下書き点検や契約書のリスク抽出のように誤りが実損につながる領域では、性能の高いモデルを選ぶ判断に合理性があります。この線引きを言語化して共有するだけでも、費用の構成は変わります。手順の組み立て方は中小不動産会社の30日導入手順をまとめた記事を参照してください。
第三に、測る指標を先に一つだけ決めることです。反響への一次返信までの平均時間、担当者一人あたりの内見設定数、物件原稿1本あたりの作成時間など、自社の業務に直結する数字を選び、3か月続けて記録します。マキニスは、トークン消費を生産性に紐づけられなければ全社展開は成り立たないと述べています。裏を返せば、指標がないままAI予算を増やす稟議は通しにくくなっていくということです。導入時の費用負担については宅建業者向けのAI導入補助金の手続き記事もあわせてご覧ください。
あわせて留意したいのが、利用状況の可視化は従業員の行動ログを取る行為でもあるという点です。日本で同様の仕組みを入れる場合は、取得目的と範囲を就業規則や社内規程で明示し、事前に周知しておくのが穏当です。宅建業者は顧客の個人情報も扱うため、社員の利用ログの管理と、AIに投入する顧客データの管理は別の設計として分けて考える必要があります。
なお、Ripplingが公表した削減幅は同社の事業構造とツール構成のもとでの数字であり、日本の不動産会社にそのまま当てはまるものではありません。この点は要確認とし、自社の実データで検証することをおすすめします。
まとめ
AIコスト管理の要点は、使う量を減らすことではなく、支出と成果を結びつけて見える状態をつくることです。Ripplingは同じ利用量のまま費用を4月比37%まで下げました。不動産事業者がまず着手すべきは、課金形態の棚卸し、タスクとモデルの対応づけ、そして測る指標を一つ決めることの三つです。日本の中小企業で生成AIの活用方針を定めているのは約34%という段階だからこそ、方針を先に決めた会社ほど費用の主導権を握れます。
参考文献
- TechCrunch|After Rippling blew millions on AI in months, it built an employee ROI tool
- Rippling|Introducing AI Spend Console
- 総務省|令和7年版 情報通信白書(概要)
- 総務省|令和7年版 情報通信白書 企業におけるAI利用の現状
※不動産のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社の不動産事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://fudosannochikara.jp/contact/
引用元: TechCrunch
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)