賃貸管理のAI導入ROIを5指標で算定する手順と90日検証法|業務効率化

会議テーブルを囲む経営メンバー

賃貸管理のAI導入ROIとは、削減工数の金額換算を投資総額で割った値のことです。

本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)の現場知見にもとづいて解説します。

決裁の場で最初に飛んでくるのは「それで何時間減って、いくら残るのか」という1問です。ところが賃貸管理会社のAI導入検討では、この1問に答える数字が社内に存在しないまま、ベンダーの見積書だけが先に回り始めます。本稿では、管理戸数と人件費単価から効果額を組み立てる5つの指標、90日で回収可能性を判定する検証手順、そして試算を自社で回すためのプロンプト6本を置きました。数字の出どころは公的統計と公式要領に限定しています。

賃貸管理のAI導入で、なぜROIが計算されないまま止まるのか

賃貸管理のAI導入がROI計算まで到達しない理由は、削減対象の工数が「戸あたり」でも「件あたり」でも測られていないことにあります。管理受託が3,000戸あっても、入居者からの設備不具合の連絡が月に何件来て、1件の一次対応に何分かかっているかを記録している会社は多くありません。分母がない状態ではAIで何割減ったかを表現できず、「楽になった」という感想だけが残ります。

業務の性質もからんでいます。売買仲介なら1件の成約が数十万円の手数料に直結し、時間短縮を金額に翻訳しやすい。対して賃貸管理は管理受託料が月額賃料の3〜5%程度という薄い単価の積み上げで、1件を10分短縮したときの金額インパクトが見えません。「効率化したい」では合意できても、「いくらまでなら妥当か」で止まります。

現場で繰り返し見るのは、対象業務の選定が「一番しんどい業務」から始まるパターンです。しんどさと発生件数は別の話で、月10件しか起きない業務を8割効率化しても効果額は数千円にとどまります。分子を太らせるのは、1件あたりが短くても月間発生件数が多い業務、つまり入居者一次問い合わせ、家賃の入金確認、修繕手配の連絡文、オーナー月次報告のドラフトといった反復作業です。

制度面の前提も押さえておく必要があります。管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理業者は国土交通省への登録が義務づけられ、営業所または事務所ごとに業務管理者を1名以上配置しなければならない、と国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイトに示されています。業務管理者が担う確認・判断の領域はAIで代替する対象ではなく、ROI試算の分子に入れない部分です。混ぜると効果額が過大に出ます。

事例から入りたい場合は、社内22,862時間の削減を分解した不動産のAI全社導入で売上2億円増を先に読むと、削減工数がどの業務から出るかの当たりがつきます。本稿はその逆で、他社の実績値を借りずに自社の数字だけで試算を組む手順を扱います。

ROIを構成する5指標を、管理戸数と人件費単価から組み立てる

賃貸管理のAI導入ROIは、5つの指標を順番に埋めれば算出できます。順番は入れ替えられません。前の指標が後ろの指標の入力値になるためです。

第1の指標は対象工数です。単位は「分/戸/月」に統一します。管理受託3,000戸の会社で入居者一次対応に月120時間を使っているなら、120時間×60分÷3,000戸で1戸あたり2.4分/月。この形にしておくと、管理戸数が増えたときの必要人員を線形に見積もれます。計測期間は最短2週間、季節変動が大きい業務なら4週間を確保したい。

第2の指標は削減時間です。想定値ではなくパイロット運用の実測値を使い、AI出力の差し戻し時間を差し引きます。生成された返信文をスタッフが読み直して修正する時間が1件2分あるなら、それは削減できていない時間です。純削減時間=(旧手順の所要時間 − 新手順の所要時間 − 確認・修正時間)で押さえます。

第3の指標は人件費単価で、単位は「円/時間」。給与額そのままではなく、法定福利費や賞与を含む総人件費で計算します。厚生労働省の令和7(2025)年賃金構造基本統計調査 速報では、一般労働者の賃金(令和7年6月分の所定内給与相当)は高校卒297.2千円、大学卒396.3千円と公表されています。仮に月額給与32万円のスタッフを想定し、法定福利費・賞与・退職給付を含む企業負担を給与の1.5倍と置くと総人件費は48万円。月間所定労働時間を160時間とすれば、人件費単価は3,000円/時間となります。1.5倍は業界の目安なので、自社の損益計算書の人件費を平均従業員数と所定労働時間で割った実数に置き換えると精度が上がります。

第4の指標は投資総額です。ライセンス費だけを見ると大きく過小に出るため、4層で積み上げます。ライセンス費(月額×12)、初期構築費(プロンプト設計・システム連携・テスト)、教育コスト(研修時間×人数×人件費単価)、運用保守(プロンプト改修と出力点検の月次時間×人件費単価)。後ろの2つは請求書が来ないので抜けやすく、落とすと回収期間が短く出ます。

第5の指標が回収期間と年間ROI率です。式は2本。回収期間(月)= 初期支出 ÷(月次効果額 − 月次ランニング費)。年間ROI(%)=(年間効果額 − 年間投資総額)÷ 年間投資総額 × 100。月次効果額は純削減時間に人件費単価を掛けた値です。

数字を入れて通してみます。入居者一次対応で月40時間の純削減が実測され、人件費単価3,000円/時間なら、月次効果額は12万円、年間144万円。投資側はライセンス月3万円(年36万円)、初期構築60万円、教育が10名×4時間×3,000円で12万円、運用保守が月4時間×3,000円で年14.4万円。初年度の投資総額は122.4万円となり、年間ROIは(144−122.4)÷122.4×100で約17.6%。初期構築と教育が落ちる2年目は投資50.4万円に対して効果144万円なので、ROIは約186%まで跳ねます。回収期間は、初期支出72万円を月次の純キャッシュ7.8万円(12万−3万−1.2万)で割って約9.2か月。

この試算を賃貸管理らしい単位に落とすと示唆が変わります。年間144万円を3,000戸で割ると1戸あたり480円/年。平均賃料6万円・管理受託料5%なら受託売上は1戸あたり年36,000円なので、効果額は管理受託売上の約1.3%に相当します。粗利で見れば無視できない比率ですが、これだけで収益構造が変わる水準ではありません。売上比で表現しておくと、社内の期待値調整が楽になります。

効果が出ない導入を、試算の段階で見分ける4つの検査

効果が出ない導入は、稼働させる前に試算書の形を見れば判別できます。検査項目は4つです。

1つ目は、分子が時間になっているか。「対応品質が上がった」「スタッフの負担が減った」は成果として正しいものの、金額に変換できないため回収期間の計算には使えません。定性的な成果は別枠のKPIに残し、分子には純削減時間だけを入れます。

2つ目は、削減した時間の行き先が決まっているか。ここが賃貸管理でもっとも抜けやすい論点です。月40時間が空いても、その時間が別の作業で埋まるだけなら人件費は1円も減りません。削減時間を金額として主張するには、残業の圧縮、パート契約時間の見直し、退職者の後任を採らない、新規受託の営業に振り替える、のいずれかを決裁前に文書化しておく必要があります。行き先が未定の効果額は、決算書のどこにも現れません。

3つ目は、コスト側にマスキング工数が入っているか。入居者の氏名・部屋番号・電話番号を含む問い合わせ本文をそのまま生成AIへ投入する運用は、個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」に照らして避けたい形です。除去してから投入する運用にすると、1件2分のマスキング作業が発生します。月200件なら6.7時間、人件費単価3,000円で約2万円/月。年24万円が投資側に乗る計算で、これを落とした試算は回収期間が実態より2〜3割短く出ます。

4つ目は、専門判断の領域を分子から外せているか。賃貸住宅管理業法にもとづく業務管理者の確認、重要事項の説明、原状回復の負担区分の最終決定は、時間短縮の対象にしても判断そのものを外注できません。滞納家賃の督促も同様で、公益財団法人不動産流通推進センターの解説では、滞納額に争いがある場合や契約解除を見据えた対応を管理会社が単独で行うと弁護士法第72条の非弁行為に当たり得ると整理されています。AIで自動化できるのは入金予定日の確認や金額の通知といった事務連絡の範囲で、交渉と法的手続は弁護士に引き継ぐ線引きが要ります。境界の実装は賃貸管理のAI家賃回収と督促メール自動化で個別に扱いました。訴訟対応の削減を分子に入れると、試算は成立しても運用が成立しません。

ROI試算と90日検証を組むプロンプト6本

以下の6本は、編集部で運用中の試算プロンプトを賃貸管理向けに整えたものです。Claude、ChatGPT、Geminiのいずれでも動きます。長い計算表を扱う工程では、1Mトークンのコンテキストを持つClaude Opus 5や推論寄りのGPT-5.6 Solのほうが桁の取り違えが少なく、定型の分類や要約はClaude Haiku 4.5やGemini 3.5 Flash-Liteで足ります。中括弧は自社の数字に置き換えてください。

最初に必要なのは、削減対象の候補を業務単位で棚卸しし、計測できる単位まで割ることです。ヒアリングシートをAIに作らせると、抜け漏れが減ります。

プロンプト1:賃貸管理業務の工数棚卸しヒアリングシート生成

あなたは賃貸管理会社の業務改善を支援するコンサルタントです。
下記の会社概要をもとに、AI導入のROI試算に必要な工数データを集めるための
ヒアリングシートを作成してください。

会社概要:
- 管理受託戸数:{戸数}
- 管理部門の人数:{正社員○名/パート○名}
- 使用中の賃貸管理システム:{賃貸革命/いえらぶCLOUD/いい生活/ReDocS/自社開発}
- 集金代行の利用:{あり/なし}

要件:
1. 対象業務を「入居者一次対応」「家賃入金確認」「督促の事務連絡」「修繕手配」
   「退去精算の下書き」「オーナー月次報告」の6区分に分けて設問を作る
2. 各業務について「月間発生件数」「1件あたり所要時間(分)」
   「担当者の雇用形態」「システム上のどの画面で作業するか」をもれなく聞く形にする
3. 所要時間は推測ではなく実測を求める設問文にし、計測方法の指示を添える
4. 最後に「この業務を止めたら法令上の問題が生じるか」の確認欄を1行入れる

出力形式:業務区分ごとの設問リスト。各設問に回答例を1つ添える

集まった生データは、そのままでは優先順位がつきません。発生件数と単価の掛け算で並べ替える工程をAIに任せます。

プロンプト2:削減インパクト順に対象業務を並べ替える

以下は賃貸管理6業務の工数実測データです。
AI導入の対象として優先すべき順に並べ替え、根拠となる計算を明示してください。

データ:
{業務名/月間発生件数/1件あたり所要時間(分)/担当者の雇用形態} を6行

前提:
- 人件費単価:正社員 {円/時間}、パート {円/時間}
- AIによる削減率の見込みは業務ごとに自分で推定し、推定理由を1行で書く
- 推定した削減率は「保守的な値」と「楽観的な値」の2通りを出す

出力:
1. 月間の削減見込み金額が大きい順に6業務を並べた一覧(金額の計算式を各行に併記)
2. 上位2業務を選んだ理由を各3行
3. 最下位2業務を今回対象外とすべき理由を各2行
4. 法令上の判断が絡むため自動化対象から外すべき工程があれば指摘

人件費単価は、給与額そのままでは低く出ます。総人件費ベースに直す計算をAIに検算させると、桁の誤りを拾えます。

プロンプト3:総人件費ベースの人件費単価を算定する

賃貸管理部門の人件費単価(円/時間)を、以下の実数から算定してください。
推定を混ぜず、与えられた数値だけで計算し、途中式をすべて示してください。

入力:
- 損益計算書の人件費(年額):{円}
- 上記に含まれる項目:{給与/賞与/法定福利費/退職給付/通勤手当}
- 管理部門の平均在籍人数:{名}
- 1人あたり年間所定労働時間:{時間}
- 内訳が分かる場合:正社員 {名}/パート {名}、パートの時間単価 {円}

出力:
1. 部門全体の平均人件費単価(円/時間)と計算式
2. 正社員とパートを分けた場合の単価それぞれ(分けられない場合はその旨を明記)
3. 残業時間を削減する場合に適用すべき割増単価(法定割増率を前提に計算)
4. この単価を使う際の注意点を3つ

効果額を出したら、次は投資側です。ライセンス費以外の3層が抜けやすいので、列挙をAIに監査させます。

プロンプト4:投資総額を4層で積み上げ、抜けを指摘する

賃貸管理会社が生成AIを1業務に導入する際の投資総額を、
初年度と2年目以降に分けて積み上げてください。抜けている費目は追加で指摘してください。

想定:
- 導入業務:{業務名}
- 利用予定のAI:{サービス名とプラン}、席数 {席}
- 既存システム連携:{あり(対象システム名)/なし}
- 社内の実装担当:{兼任/専任/外部委託}
- 研修対象者:{名}

積み上げる4層:
1. ライセンス費(月額×12)
2. 初期構築費(プロンプト設計・連携開発・テスト。工数×単価で内訳を示す)
3. 教育コスト(研修時間×人数×人件費単価)
4. 運用保守(プロンプト改修・出力点検の月次工数×単価)

出力:
1. 初年度と2年目の投資総額、および4層それぞれの金額と計算式
2. 一般に見落とされやすい費目を5つ、金額の目安つきで
3. 個人情報のマスキング運用を人手で行う場合の追加工数見積もり

回収期間の単一値は、意思決定にはほとんど役立ちません。削減率が想定を下回ったときにどうなるかまで出させて、はじめて判断材料になります。

プロンプト5:回収期間と感度分析(ワーストケース込み)

以下の数値から、回収期間と年間ROI率を算定し、感度分析を行ってください。
計算式は毎回明示し、四捨五入の位置も書いてください。

入力:
- 月次の純削減時間:{時間}(AI出力の確認・修正時間を差し引いた後の値)
- 人件費単価:{円/時間}
- 初期支出(初期構築+教育):{円}
- 月次ランニング費(ライセンス+運用保守+マスキング工数):{円}
- 補助金の適用見込み:{あり(補助率○/なし)}

出力:
1. 回収期間(月)と初年度・2年目の年間ROI率
2. 感度分析:純削減時間が想定の75%/50%/25%だった場合の回収期間
3. 回収期間が24か月を超える条件を逆算して提示
4. 補助金を適用した場合と適用しない場合の差(後払いによる立替負担にも言及)
5. この試算で最もぶれやすい変数を1つ挙げ、検証方法を3行で

最後は検証設計です。90日で判定できる粒度まで落とし、外部要因と自社の施策効果を切り分ける設計をAIに書かせます。

プロンプト6:90日検証計画とKPI定義書の作成

賃貸管理業務へのAI導入について、90日で投資判断ができる検証計画を作成してください。

前提:
- 対象業務:{業務名}
- 月間発生件数:{件}
- 検証に割ける人員:{名}、1人あたり週 {時間}
- 比較対象:旧手順を並走させる/過去実績と比較する({選択})

出力:
1. 0〜14日/15〜30日/31〜60日/61〜90日の4フェーズで、各フェーズの作業と成果物
2. 計測するKPIを5つ定義(定義式・計測方法・記録場所・計測担当を各1行で)
   ※必須で含める:1戸あたり月次工数(分/戸/月)、AI出力の差し戻し率、
     入居者またはオーナーからの再問い合わせ率
3. 横展開に進む判定基準と、撤退の判定基準をそれぞれ数値で
4. 市況変動(空室率・繁忙期)による影響を切り分けるための外部指標の使い方
5. 決裁資料の目次案(A4で2枚に収まる構成)

試算が外れる失敗例と回避策

もっとも多いのは、ベースラインを取らずに走り出すケースです。導入後3か月たってから「導入前は何分かかっていたのか」を誰も答えられず、削減率を後付けで推定することになります。回避策は単純で、パイロットの開始日をずらしてでも2週間の実測を先に置く。ストップウォッチは不要で、賃貸管理システムの処理完了時刻や、問い合わせ受信から一次返信までのタイムスタンプで足ります。

次に頻出するのが、削減時間をそのまま効果額として決裁に上げてしまうパターン。時間の行き先が決まっていない削減はキャッシュを生みません。導入から半年後に「効果が出ていない」と言われる案件の大半がこの形でした。回避策は、決裁資料に「削減した月40時間の使途」を1行で書き切ること。残業削減なら割増単価で計算し直す必要があり、同じ40時間でも効果額は1.25倍に動きます。誰の時間を削るかで金額が変わる点は、正社員とパートの単価差でも同じ。時間単価1,300円のパートの作業を40時間削っても効果額は5.2万円で、正社員換算の12万円とは2倍以上ひらきます。

3つ目は、感度分析を省いた単一値での決裁です。先の試算例で回収期間は約9.2か月でしたが、純削減時間が想定の半分(月20時間)にとどまると月次の純キャッシュは1.8万円まで落ち、回収期間は40か月へ伸びます。9か月と40か月では投資判断そのものが変わります。削減率の見積もり誤差に対する感度が高いので、保守的なケースを併記しない試算書は決裁に出さない運用が安全側に振れます。

4つ目は、対象業務の切り出しが粗すぎるパターン。「退去精算をAI化する」という括り方では、負担区分の判断と精算書の文面作成が混ざり、削減率が薄まるうえ判断に踏み込む出力が混じります。工程を分解し、定型作業だけを切り出すこと。オーナー月次報告なら「集計」「コメントのドラフト」「最終確認」の3工程に割り、ドラフトだけをAIに寄せる形が扱いやすい。

KPI設計と費用・工数の目安(2026年8月時点)

KPIは5本に絞ります。1戸あたり月次工数(分/戸/月)、一次応答までの平均時間、AI出力の差し戻し率、オーナー月次報告の作成リードタイム、督促の事務連絡を送るまでの日数。差し戻し率だけは品質の指標で、悪化しているなら削減時間の実測値は信用できません。許容ラインは現場感覚で2割が上限です。

ツール費用の目安は、2026年8月時点でClaudeのProプランが月20米ドル、ChatGPT Plusが月20米ドル、Google AI Proが月20米ドル前後。法人向けは席数課金が基本で、管理部門10名なら月200〜300米ドル規模になります。API従量課金で自社システムに組み込む場合は処理件数に比例するため、月間発生件数を先に確定しないと見積もりが立ちません。為替と料金は変動するので、決裁直前に公式ページで再確認を。

公的支援を織り込む選択肢もあります。デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の通常枠では、補助率が1/2以内、一定の賃金要件を満たす場合は2/3以内。補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下と公表されています。ソフトウェア購入費に加えてクラウド利用料(最大2年分)、導入コンサルティング、導入研修、保守サポートも対象経費に含まれ、汎用ツール単体では申請できない点が要件です。4次締切は2026年8月25日17時、事業実施期間は交付決定から2027年3月31日17時までの予定と示されています。年度で要件が変わるため、公募要領で最新版を確認してから試算に織り込んでください。

補助金がROIをどう動かすかも見ておきます。先の例で初期構築60万円が補助率1/2で30万円になると、初期支出は72万円から42万円へ下がり、回収期間は約5.4か月まで短縮されます。ただし補助金は交付決定後の後払いなので、キャッシュフロー上はいったん全額を立て替えます。回収期間の計算には補助後の金額、資金繰り表には補助前の金額を使う二重管理が実務では要ります。

工数の目安は、棚卸しに管理部門2〜3名で合計8〜12時間、1業務あたりのプロンプト整備に4〜8時間、検証の計測に週1時間×12週。最初の1業務が本番稼働するまで4〜6週間が、直近の支援案件で観測した相場です。2週間で回そうとすると、ベースライン計測が犠牲になります。

今後の展望と独自考察:ROIの分母は下がり、分子は天井に当たる

2026年後半の賃貸管理AIでは、ROIの分母(投資額)と分子(効果額)が逆方向に動いています。分母は下がり続けています。Claude Haiku 4.5やGemini 3.5 Flash-Liteのような軽量モデルで定型処理の単価が下がり、初期構築も賃貸管理システムのAPI開放につれて短くなりました。

一方の分子には天井が見えてきました。入居者一次対応、家賃入金確認、修繕手配の連絡文といった定型業務の8割を削っても、残る2割は判断と法令遵守の領域です。業務管理者の確認、負担区分の決定、滞納対応の法的判断。ここは削れないので、業務単位の削減時間はいずれ飽和します。3,000戸規模なら月100〜150時間が定型作業由来の削減の上限という感覚を、複数の支援先で持ちました。会社の業務設計に依存するので目安として扱ってください。

だから次の設計は、分子を「削減時間」から「増えた受託戸数」へ拡張する方向に動きます。空いた100時間をオーナー開拓に振り、管理受託が年間200戸増えれば、1戸あたり年36,000円で720万円の売上増。削減時間の144万円とは桁が違います。ただし因果を立証しづらく、90日では判定できません。90日で判定するのは削減時間、12か月で追うのが受託戸数という二段構えが現実的です。

もう1点、外部要因の切り分けを置いておきます。AI導入後に入居率が上がったとき、それがAIの効果か市況かを社内の数字だけで判断すると、高い確率で誤ります。日本賃貸住宅管理協会の日管協短観のような業界の景況指標を横に置き、自社の入居率変動が業界の変動幅を超えているかを見る。超えていなければ、その改善はAIの成果として計上しない。この節度が、2回目以降の投資判断の質を決めます。

AIエージェントが業務を横断して動く段階に入ると、測定の単位そのものが変わります。業務ごとの削減時間ではなく、1件の退去案件が発生から精算完了まで何日かかったか、という案件単位のリードタイムがROIの主指標になる。その移行期の設計はAIエージェントによる不動産業務の自動化で整理しました。案件単位で測ると、工程間の手待ち時間という、これまで計上されてこなかった工数が可視化され、分子はもう一度太る余地が出ます。

よくある質問

賃貸管理のAI導入ROIは何か月で回収できますか

回収期間は自社の数値でしか出せません。参考として、月40時間の純削減・人件費単価3,000円・初期支出72万円・月次ランニング費4.2万円なら約9.2か月です。ただし純削減時間が想定の半分だと40か月まで伸びるため、保守的なケースを併記した試算書で判断してください。

削減時間はどうやって測ればよいですか

タイムスタンプの差分で測るのが実務的です。賃貸管理システムの処理ログ、問い合わせ受信から一次返信までの時刻、精算書の作成開始と完了の時刻を使えば、専用の計測ツールは不要です。導入前2週間と導入後4週間を同じ定義で比較し、AI出力の確認・修正時間を差し引いた純削減時間を採用します。

人件費単価はいくらで計算すればよいですか

損益計算書の人件費を平均在籍人数と年間所定労働時間で割った実数を使ってください。実数が出せない場合は、月額給与の1.5倍を総人件費と置いて月160時間で割る簡便法があります。月額給与32万円なら3,000円/時間。残業を削る場合は法定の割増率を反映させると、同じ削減時間でも効果額が変わります。

管理戸数が少ない会社でもROIは出ますか

出ますが、対象業務の選び方が変わります。管理500戸規模は月間発生件数が少ないため、1件あたりの時間が長い業務、つまり退去精算の下書きやオーナー月次報告のドラフトに寄せるほうが効果額をつくりやすい。初期構築費を抑えるため、システム連携なしで月額プランのAIを手作業で使う構成から始める形が現実的です。

家賃督促をAIで自動化してもよいですか

事務連絡の範囲までは自動化できますが、法的な交渉は対象外です。不動産流通推進センターの解説では、滞納額に争いがある場合や契約解除を見据えた対応を管理会社が単独で行うと、弁護士法第72条の非弁行為に当たり得ると整理されています。入金予定日の確認や金額の通知にとどめ、それ以降は弁護士へ引き継いでください。ROIの分子に訴訟対応の削減は入れません。

入居者の個人情報をAIに入れても問題ありませんか

同意のない個人情報の投入は避けるべきです。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しており、入力情報の取り扱いを確認せずに個人データを投入する運用にはリスクがあります。氏名・部屋番号・連絡先を除去してから投入する形に切り替え、そのマスキング工数をコスト側へ計上してください。月200件で約2万円/月が目安です。

補助金は使えますか

デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠が候補になります。補助率は1/2以内(一定の賃金要件を満たす場合は2/3以内)、補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下と公表されています。クラウド利用料は最大2年分、導入研修や保守サポートも対象経費。要件は年度で変わるので、申請前に公募要領で確認してください。

まとめ

賃貸管理のAI導入ROIは、対象工数、純削減時間、人件費単価、投資総額、回収期間の5指標を順に埋めれば自社で算出できます。前提はベースラインの実測と、削減した時間の行き先を先に決めておくこと。この2つを飛ばした試算は決算書に現れません。感度分析で保守的なケースを併記し、90日で削減時間を判定し、12か月で受託戸数を追う。この設計なら、2回目以降のAI投資も同じ物差しで比較できます。

参考文献


著者:齋藤竹紘(株式会社オルセル 編集長/宅建業免許 東京都知事(1)第113520号/AI導入支援100社超/EC支援19年5,000社超のノウハウを不動産×AIに横展開)


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【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)