FSBO.comは2026年9月4日、申込から合意までを1画面で完結させるPACTのベータ版を公開しました。
米国の売主直販ポータルであるFSBO.comが、購入申込から契約合意までを1つのオンライン画面で完結させる新技術「PACT(Purchase Agreement Creator Technology)」のベータ版を公開しました。日本でも2022年5月18日の宅建業法改正で35条書面・37条書面の電子交付が解禁されて4年が経ちますが、申込書と買付証明のやり取りだけは今もメールとPDFの往復で回っている事業者が少なくありません。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が、日本の宅建業者の実務に引き寄せて3つの論点で解説します。
PACTとは何か|申込・交渉・合意を1本の履歴に束ねる仕組み
PACTとは、購入申込から売買条件の合意までを1つのオンラインワークフローで処理する交渉プラットフォームのことです。HousingWireによると、買主は物件掲載ページからそのまま申込を起票でき、売主側は条件ごとの個別カウンター、ベストアンドファイナルの要求、複数申込の並列管理を同じ画面で行えます。交渉が完了すると、最終合意条件を反映した1通のメモランダムが自動生成され、交渉履歴がデジタル記録として残る設計です。
技術基盤はブラッド・ライスが創業したHomepieで開発されたものを拡張したと発表されています。ライスは現行の実務について、メールで送り直され再署名され続ける書類の連なりだと述べており、何が最終合意なのか判別しづらい点を課題に挙げています。仲介業者が入る取引にも対応し、担当者が依頼者に代わって交渉を進めつつ、条件の確認と署名の責任は当事者に残る構成になっています。
続く「契約から決済まで」の領域については、bevri.aiとの連携で、融資・インスペクション・タイトル・エスクローといった分断されたプレイヤーを接続する開発を進めるとしています。ベータはまずFSBO.comの利用者コミュニティに限定公開され、そのフィードバックを反映してから広く展開する計画です。
日本の宅建業者にとっての3つの論点
論点は3つあります。制度は整っているのに実務が追いついていない領域が、まさに申込から契約までだからです。
第一に、電子化の空白地帯が「申込書」に残っている点です。日本では国土交通省が2022年5月18日施行の宅建業法施行規則改正で、媒介契約書・重要事項説明書・37条書面の電磁的方法による提供を認め、宅建士の押印義務も廃止しました。ところが法定書面より前段にある購入申込書・買付証明書・入居申込書には、そもそも法定様式がありません。だからこそ各社バラバラの様式がFAXとPDFで飛び交い、条件変更のたびに版が増えていきます。PACTが解こうとしているのは、この法定書面の手前にある無法地帯です。
第二に、交渉履歴が証拠として残るかどうかという点です。複数申込が入ったときに、いつ誰がどの条件を出し、どれを断ったのか。この記録が散在していると、後日の紛争や苦情申立てで宅建業者側が説明責任を果たしにくくなります。囲い込みを疑われた際に反証できる材料になるのも、時系列の交渉ログです。1本の履歴に束ねる設計は、業務効率よりむしろコンプライアンス側の価値が大きいと考えられます。
第三に、仲介の役割が「書類の運び屋」から外れる点です。PACTは非仲介取引を主戦場にしつつ、仲介が入る取引でも使える前提で設計されています。書類往復の代行が価値の中心だった仲介業務は、条件設計の助言や物件固有のリスク説明といった、判断を伴う領域に比重を移さざるを得なくなります。これは日本でも同じ方向に働く力です。なお、米国の申込実務と日本の宅建業法上の契約実務は前提が異なるため、PACTの仕組みをそのまま日本に持ち込めるわけではない点は要確認としておきます。
今日から取れる3つの初動アクション
最初の一歩は、自社の申込書テンプレートを1枚に統一することです。特別なシステムを入れなくても着手できます。
まず、購入申込書と買付証明書の様式を社内で1本化し、条件項目(価格、手付、融資特約、引渡時期、瑕疵の取扱い、その他特約)をフィールド化します。項目が固定されていないと、どんなツールを入れても記録は構造化されません。
次に、条件変更のやり取りをメール本文からフォームに移します。Googleフォームやkintoneのような既存ツールでも、申込のたびにレコードが1件立ち、変更が履歴として積み上がる形にはできます。ここまでで「誰がいつどの条件を出したか」は残ります。
最後に、生成AIを使うのは条件比較と要約の工程からにします。複数申込が入った局面で、各申込の差分を条件項目ごとに整理させ、売主向けの比較メモを作らせる用途は再現性が高い領域です。AIによる契約書レビューの進め方はAI契約書レビューで賃貸借契約のリスクを検出する実務で、重要事項説明のAIチェックについてはAI重説チェックの実務8検査で扱っています。なお、申込情報には氏名・勤務先・年収といった個人情報が含まれるため、外部AIサービスへの投入は本人の同意と学習利用の停止設定を確認してからにしてください。
まとめ
PACTのベータ公開は、不動産テックの主戦場が集客と物件検索から、契約直前の交渉プロセスへ移りつつあることを示す動きです。日本では法定書面の電子化は2022年に解禁済みで、残る空白は法定様式のない申込書と交渉履歴の領域にあります。自社の申込様式を1本化し、条件をフィールド化しておくことが、どのツールを選ぶにせよ最初の投資になります。国内の各社動向は不動産テックカオスマップ2026比較も参考にしてください。
参考文献
- HousingWire・FSBO.com rolls out PACT for home purchase agreements
- PR Newswire・FSBO.com Introduces New Digital Offer-to-Contract Technology to Modernize the Homebuying Process
- 国土交通省・不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります(宅地建物取引業法施行規則の一部改正等)
- HousingWire・bevri.ai unveils AI-powered point-of-sale platform
※不動産のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社の不動産事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: HousingWire
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)