JLLの2026年調査では、企業の6割超がAI時代も人員増を見込んでいました。
AIが仕事を奪うからオフィス面積は縮む、という前提が数字に裏切られつつあります。JLLが2026年に実施した「Future of Work Survey 2026」では、21カ国・2,200人超の経営層と企業不動産(CRE)責任者のうち、6割を超える企業が人員増を見込むと回答しました。同時に、CRE責任者の78%が「AIは自社の不動産ポートフォリオを作り変える」と考えている一方、実際に手を打てているのは15%にとどまります。オフィス仲介・ビル管理・投資不動産に関わる日本の不動産事業者にとって、面積の増減より先に読むべきは「使われ方が変わる」という論点です。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。
何が起きたか:2,200人調査で6割超が人員増を見込む
結論から言えば、AIによる人員削減とオフィス縮小をひとまとめに語る前提が、調査結果と噛み合っていません。Propmodo が2026年9月1日に報じたところによると、JLLのFuture of Work Survey 2026 は2026年1月から4月にかけて21カ国・15業種の経営層と企業不動産責任者2,200人超から回答を集め、多くの組織が人員の純増を見込んでいることを明らかにしました。JLLのコンサルティング部門を統括する Peter Miscovich は「見聞きしている見出しとは逆の結果が数多くあった」と述べています。一部の職種で削減が起きる一方、別の職種では戦略的に人を増やす、という同時進行の動きが数字の背景にあります。
もう一つ見逃せないのが、制約要因の順位が入れ替わったことです。JLLは、不動産の変革を阻む最大の障壁が予算ではなく人材のスキルギャップになったのは、この調査15年の歴史で初めてだとしています。人が余るのではなく、AIを前提に業務を組み替えられる人が足りない、という構図です。
日本の不動産事業者にとっての3つの論点
第一の論点は、契約期間の短期化です。Miscovich は、AIが労働力に与える影響のシナリオを検討した結果として、賃貸借期間の短縮とフレキシブルスペースの必要性が増すと見ています。不動産の意思決定は10年、15年単位で効いてくるのに対し、AIによる働き方の変化は四半期単位で動きます。日本のオフィス仲介やビルオーナーにとっては、普通借家の長期前提だけで埋めきる想定を見直し、定期借家やセットアップオフィス、フロア分割の引き合いにどこまで応じるかという線引きが、これまで以上に収益を左右します。
第二の論点は、内装要件が音声を軸に変わることです。企業は職場でAIと音声でやり取りする形を実験し始めており、Miscovich は遮音、個別スピーカー、プライベートゾーンといった課題が生まれると指摘しています。20年続いたオープンプランは、発話しながら働く前提とは相性がよくありません。日本のPM・BM会社や内装工事に関わる事業者にとっては、遮音ブースや個室化を原状回復やバリューアップ工事のメニューとして提案できるかが差になります。設備投資の判断軸は、賃貸管理AIの投資回収を3段階で考える整理と同じ発想で組み立てられます。
第三の論点は、78%と15%の差そのものです。変わると認識している企業が8割近くいるのに、動けている企業は1割台にとどまります。テナント企業の側に「何をどう変えればよいか分からない」という空白が広がっているということであり、貸す側・管理する側が先に言語化して提案できれば、賃料交渉ではなく要件定義から関与できます。自社の業務システム側の考え方は、不動産の基幹SaaSはAIに溶ける、業務システム選定で問う3つの基準でも整理しています。
今後の展望と初動アクション
まず着手しやすいのは、既存テナントへの更新ヒアリングにAI利用の項目を足すことです。社内で生成AIをどの部署が使っているか、音声での利用があるか、今後1年で人員を増やす計画か。この3問を更新面談の定型に入れるだけで、遮音工事や区画変更の提案タイミングを先回りできます。
次に、遮音ブースや個室ゾーンを工事メニューとして単価つきで持っておくことです。テナント側から相談が来てから見積もりを取ると数週間かかりますが、標準仕様を用意しておけば同じ商談の中で提案まで進められます。
三つ目に、自社のオフィスを先に作り替えることです。仲介や管理の現場でも、AIへの音声入力や通話の自動記録は増えていきます。自社で試した結果を持っている事業者は、テナント企業への説明の説得力が変わります。
なお、ウェアラブル端末がスクリーンとデスクを前提とした面積計算を置き換えるという見通しは、Miscovich 個人の予測であり、時期も普及度も未確定です。この部分は要確認の中長期論点として扱い、いま設備投資の根拠にはしない方が安全です。
まとめ
AIはオフィスを消すのではなく、契約期間と内装要件を書き換えています。日本の不動産事業者がいま取るべきスタンスは、面積の増減予測ではなく、短期契約への対応力と遮音・個室化の提案力を整えることです。テナントの78%が変化を認識しながら15%しか動けていない今が、要件定義から入り込める時期にあたります。
参考文献
- Propmodo|AI Is Not Killing the Office But It Is Changing How We Use It
- JLL|The future of work survey 2026
- JLL Newsroom|AI redesigns jobs, not cuts them
- Propmodo|The Office Market Is Finally Posting Numbers That Look Like 2019
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引用元: Propmodo
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)