米国の就業者の20パーセントが、以前は同僚や外注先に任せていた仕事をAIに委ねています。
調査会社Ipsosのパネルを使ったEpoch AIの最新調査で、AIへの業務委任が「補助」から「代替」の段階に入り始めた実態が数字で示されました。不動産業界でも、賃貸管理の記録整理や書類の読み込みといった、これまでパートや外注に流していた事務業務がまさに同じ性質を持っています。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。

調査で判明した事実|10業務すべてでAI利用が確認された
結論から言えば、AI利用はもはや一部の先進職種に限られた話ではなくなりました。Epoch AIが2026年8月6日に公開したレポートによると、就業中の米国成人1,106人を対象に2026年7月10日から19日にかけて実施した調査で、回答者の19.9パーセントが「以前は同僚や外注先に渡していた業務のうち、少なくとも1つをいまはAIがほぼ全部、あるいは全部こなしている」と回答しました。
調査対象となった10業務は、米労働省の職業データベースO*NETから就業者数の多いものを選んだもので、いわゆるナレッジワークの基礎動作にあたります。人からAIへの置き換えが最も多かったのは「データの分析」で7.1パーセント、次いで「業務文書を読む」が5.7パーセント、「記録の維持管理」が5.3パーセントでした。いずれも不動産会社の日常業務にそのまま重なる作業です。
業務ごとの利用率で見ると、その業務を実際に担当している人のうちAIを使っている割合は、最も低い「記録の維持管理」で25パーセント、最も高い「コンピュータシステムやソフトの設計」で57パーセント、「データの分析」が46パーセント、「業務文書を読む」が39パーセントでした。調査は確率標本にもとづくIpsosのKnowledgePanelを使っており、自己選択バイアスが小さい点も、この数字を軽く見られない理由になっています。

不動産業務にとっての論点|「一部だけ任せる」が最も報われない
不動産事業者がこの調査から読み取るべき論点は3つあります。
第1に、時間短縮は「任せ方の深さ」に比例していました。AIが業務の一部だけを手伝った場合に「時間が減った」と答えた割合は37パーセントだったのに対し、AIが業務のほとんど、または全部をこなした場合は53パーセントに上がっています。逆に、AI利用業務の約6分の1では以前より時間が増えたという回答もありました。つまり、物件資料の一部だけをAIに書かせて残りを人が直す運用は、最も投資対効果が出にくい形になりやすいということです。工程を丸ごと切り出して渡す設計にできるかどうかが分かれ目になります。
第2に、成果物の受け入れ方です。AIが関与した業務の66パーセントは、無修正または軽微な修正だけで使われていました。内訳は無修正が5.8パーセント、軽微な修正が59.9パーセント、大幅な修正が27.1パーセント、ほぼ作り直しが4.7パーセントです。この「ほぼそのまま使う」という運用実態は、不動産業では相応のリスクを伴います。重要事項説明書や契約書の文面、賃料査定の根拠部分は、AIの出力をそのまま採用してよい領域ではありません。AI査定はあくまで参考値であり、最終的な判断と説明責任は宅地建物取引士が負うという前提を、社内ルールとして明文化しておく必要があります。
第3に、個人情報の扱いです。入居希望者の氏名・勤務先・年収、オーナーの連絡先といった情報を、本人の同意や利用目的の明示なくAIサービスへ投入する運用は、個人情報保護法の観点から問題になり得ます。委任する業務を広げるほど、この線引きを先に決めておく重要性が上がります。

初動アクション|委任する業務を「工程単位」で棚卸しする
まず取り組みたいのは、自社の業務を工程単位で書き出し、そのうち「外注やパートに出していた、あるいは出そうと考えていた作業」に印をつけることです。今回の調査で置き換えが進んでいたのは、記録管理、文書の読み込み、データ分析という、成果物の正解が比較的はっきりしている業務でした。退去精算の明細チェック、レインズや自社システムから吐き出したCSVの集計、募集図面のテキスト起こしなどが候補になります。
次に、その工程を丸ごと渡せる形に整えます。入力データの置き場所、出力フォーマット、確認者を誰にするかまで決めて初めて、調査が示す53パーセント側の効果に近づきます。半端に一部だけ渡すと、確認コストのほうが増えます。
そのうえで、宅建業法と景表法に触れる領域は明確に外します。募集広告の表現、賃料や売却価格の見通し、利回りの説明といった、断定が禁じられている領域はAIに最終文面を作らせない。ここは人が書く、という線を引いておくことが、結果的にAI活用の範囲を安心して広げることにつながります。
最後に、効果の測り方を決めておきます。1件あたりの処理時間、差し戻し率、外注費の推移といった指標を、導入前に一度だけ測っておけば十分です。今回の調査でも、AIを使った結果かえって時間が増えた業務が6分の1あったことを踏まえると、測らずに広げるのは危険だと言えます。
まとめ
AIへの業務委任は、米国では就業者の5人に1人が経験する段階に入りました。不動産事業者にとっての要点は、一部だけ手伝わせるのではなく工程ごと渡せるように業務を切り出すこと、そして重要事項説明や査定根拠、個人情報といった委任してはならない領域を先に線引きしておくことです。この2つを同時に進められる会社から、事務コストの構造が変わっていきます。
参考文献
- Epoch AI – One in five US workers now delegates tasks to AI instead of other humans
- Epoch AI – AI is a common workplace tool: half of employed AI users now use it for work
- Epoch AI – Polling on AI Usage(調査データ・方法論)
- O*NET OnLine(米労働省 職業データベース)
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引用元: Epoch AI
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)