Google TimesFM-3が需要予測を刷新|不動産活用3領域と注意点

Google Research が公開したAI需要予測モデル TimesFM-3 を不動産事業者向けに解説します。3億3000万パラメータでゼロショット運用でき、繁忙期の来店予測や空室予測に使える3領域と宅建業法の線引きを整理しました。

Google TimesFM-3が需要予測を刷新|不動産活用3領域と注意点

Google Research は2026年9月12日、複数データを同時に読む時系列予測モデル TimesFM-3 を公開しました。

過去の売上や来店数といった時系列データに加えて、天候予報や販促スケジュールのような「すでに決まっている未来の予定」まで読み込んで先を予測する。パラメータ数3億3000万のこのモデルが、追加学習なしのゼロショットで動く点が今回の要点です。不動産事業者にとっては、繁忙期の問い合わせ数、空室の埋まり方、更新・退去の発生といった読みづらい波を、勘ではなく数値レンジで扱える手段が増えたことを意味します。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。

販促スケジュールを与えた予測と与えない予測の比較グラフ。販促日に約20パーセント高い売上を見込む青い線と、平常パターンを続ける赤い線

TimesFM-3とは|3億3000万パラメータで1兆点を学習した時系列予測モデル

TimesFM-3とは、Google Research が公開した時系列データ専用の予測基盤モデルのことです。The Decoder の報道によると、パラメータ数は3億3000万、学習に使われた実データと合成データの時系列は合計1兆データポイントを超えます。連続する32点をひとつのまとまりとして扱い、単位や桁が違う指標を共通のスケールに揃えてから比較する設計になっています。

最大の変化は、扱えるデータが1本から複数本になったことです。2025年9月に出た前世代の TimesFM-2.5 までは、一度に読めるのは単一の系列だけでした。TimesFM-3 は、予測したい対象そのものに加えて、過去しか分からない補助データ(来店数など)と、未来まで分かっている既知の予定(販促日、天候予報、休日)を並べて読み込みます。

予測のつくり方も変わりました。従来は少し先を予測し、その結果をもとにさらに先を予測する積み上げ式で、誤差が後ろに向かって膨らむ弱点がありました。TimesFM-3 は未来の全時点をいったん空欄にして一度に埋めるため、計算時間が短く、誤差の連鎖も起きにくいとされています。出力は1点の予測値ではなく1時点あたり9個の値で、どのくらいの幅で外れうるかまで返す設計です。

Google が示したアイスクリーム販売の例では、販促スケジュールを与えられたモデルが、過去の値引き時の反応を学習して販促日に約20パーセント多い販売数を見込みました。スケジュールを知らないモデルは、平常どおりの週次パターンをそのまま延長しただけで終わっています。Gift-Eval、FEV-Bench、Time の3つのベンチマークでは、点予測と予測幅の妥当性の両面で既存の学習済み予測モデルの中で首位とされ、比較対象には Amazon の Chronos-2 などが挙げられています。

TimesFM-3のアーキテクチャ図。32点ごとのまとまりに区切られた4本の時系列と、時間方向と系列方向の2種類の注意機構

不動産業務でAI需要予測が効く3領域|繁忙期・空室・修繕

不動産事業者がまず試す価値があるのは、「未来の予定が先に決まっている」業務です。TimesFM-3 の強みは既知の未来イベントを手がかりにできる点にあるため、予定表が存在する領域ほど精度が出やすい構造になっています。

第1は繁忙期の来店・問い合わせ予測です。賃貸仲介では1月から3月に需要が集中し、その前後で人員シフトと広告費の配分を決めます。ここに、過去数年の問い合わせ件数と、自社で決めてある広告出稿スケジュールやポータルサイトの特集掲載日、さらに天候予報を補助データとして与えると、週単位の山と谷を幅つきで見積もれます。予測の幅が広い週は、増員の判断を保留してパート枠で吸収するといった使い分けができます。

第2は空室と退去の予測です。賃貸管理では、更新時期、契約満了日、募集開始日が台帳にすでに存在します。過去の成約までの日数と合わせて読ませることで、どの月に空室が増えるかを事前に把握でき、原状回復業者の押さえ方や広告予算の前倒しに反映できます。物件単位で空室率を読む考え方は、AI空室予測モデル導入の7プロンプトで扱っています。

第3は修繕費と設備コストの予測です。管理物件の水光熱や修繕履歴は月次の時系列データそのもので、気温予報を既知の未来イベントとして加えれば、空調や給湯の負荷が上がる月を織り込んだ資金計画が立てられます。賃料側の予測は、AI商圏分析と賃料予測の実務で扱った商圏データとの組み合わせが相性のよい進め方です。

導入経路は3つあります。GitHubHugging Face でモデルが公開されており、自社サーバや Google Colab で試せます。加えて Google は今後数週間のうちに BigQuery への追加を予定しており、BigQuery では現在 TimesFM-2.5 が AI.FORECAST コマンド経由で単変量の予測を担っています。SQLだけで予測が書けるようになれば、社内にデータ基盤があるかどうかが分かれ目になります。

初動の3手と宅建業法・景表法の線引き

最初にやるべきは、モデル選定ではなくデータの棚卸しです。TimesFM-3 は追加学習なしで動くため、技術的な障壁より「24か月以上連続した月次データが社内にあるか」のほうが先に問題になります。レインズや自社CRMから抽出できる系列を洗い出し、欠測月の扱いを決めるところから始めてください。既存データの掘り起こしは、レインズのAI分析で物件データを活かすの手順がそのまま使えます。

次に、既知の未来イベントを表に落とします。広告出稿日、ポータル特集日、キャンペーン期間、更新満了日、法定点検日。これらを日付と区分の2列で持っておくだけで、予測の入力として使える形になります。多くの会社でこの情報は担当者の頭とスプレッドシートに散っており、集約されていないのが実情です。

3手目は、精度の検証設計です。過去2年のデータで直近3か月を隠して予測させ、実績との差を月ごとに記録する。この地味な検証を先に回さないと、外れた理由が読めないまま運用が始まります。出力が9個の値で返る仕様は、幅の広さ自体を意思決定材料にできる点で有利です。

法令面の線引きははっきりしています。AIによる予測値は参考情報であり、賃料査定や売買価格の提示にそのまま転用して顧客に示す場合、最終判断は宅建士が行う前提を崩さないことが前提です。とくに予測結果を根拠に「これから上がる」「利回りを約束する」といった表現を広告や提案書で使うと、景品表示法の優良誤認や宅建業法の断定的判断の提供に触れる可能性があります。社内の意思決定に使う分には自由度が高い一方、顧客提示物に出す段階で表現の審査を挟む運用にしてください。査定精度の見方はAI家賃査定の精度をMERで見抜くで整理しています。

個人情報の扱いにも注意が必要です。予測に使うのは集計済みの件数・金額の時系列であり、入居者の氏名や連絡先を外部モデルに投入する必要はありません。集計単位で扱うという原則を先に決めておけば、個人情報保護法上の論点はほぼ回避できます。

まとめ

TimesFM-3 は、販促スケジュールや天候予報のような既知の未来を読み込んで一括で先を埋める時系列予測モデルで、3億3000万パラメータのゼロショット運用に対応しています。不動産事業者が狙うべきは繁忙期の来店予測、空室と退去の見通し、修繕費の資金計画という3領域です。まずは24か月分の月次データと予定表の棚卸しから始め、顧客提示物に出す段階では宅建業法と景品表示法の審査を挟む運用を組んでください。

参考文献

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引用元: The Decoder


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)