米国の賃貸市場で、敷金の縮小と入居審査の緩和が同時に進んでいます。
不動産専門メディアのPropmodoが2026年9月9日に報じた内容によれば、米国の集合住宅市場は全国空室率8.6%という高水準に達し、賃料の伸びは年0.2%まで鈍化しました。入居率を守るために、運営会社が審査基準と敷金を同時に下げているという指摘です。日本の賃貸管理会社にとっても、賃貸管理のAI与信をどう設計するかを考えさせられる内容でした。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。

空室率8.6%と敷金250ドル、米国で起きている二重の緩和
結論から言えば、米国では「入居率を買うために信用リスクを引き受ける」動きが、担保の縮小と同時に進行しています。2026年の最初の5か月間の吸収戸数は前年同期比61%減の10万8000戸にとどまり、稼働率は94.1%へと前年から0.6ポイント下がりました。Yardiが追跡する主要30市場のうち稼働率が上昇したのはサンフランシスコだけという状況です。
注目すべきは、値引きの中身が変わっている点でした。賃料1か月分のフリーレントは実効賃料に反映され、市況が締まれば元に戻ります。しかし信用情報が薄い、勤続年数が短い、家賃比率が通常の引受基準を外れているといった入居者を通す判断は、どの指標にも表れません。LeaseLockのCEOであるJanine Jovanovicは「値引きは常に金銭的なものとは限らない」と述べています。
同時に、敷金も下がっています。米国の低所得者向け税額控除住宅を扱うある運営会社は、2025年後半に無条件承認の入居者について敷金を一律250ドル、条件付き承認でも500ドルへ引き下げました。市場価格帯の物件で賃料1か月分が標準であることを踏まえると、大幅な縮小です。退去のおよそ3分の1が滞納・原状回復費の超過・夜逃げ・立退き費用のいずれかで運営側の損失になるとされており、その損失は入居判断から半年から1年遅れて表面化します。
制度面の圧力も一方向です。約30州とワシントンD.C.が敷金の上限を法定しており、最も多い上限は賃料1か月分です。コロラド州は2026年1月にHB25-1249で1か月上限を導入し、カリフォルニア州はAB2801により2025年7月から控除には写真による記録を求めるようになりました。市況が戻っても、敷金という担保は制度的に薄いままになります。
日本の賃貸管理会社が読み替えるべき3つの論点
日本でも構造は驚くほど似ています。敷金ゼロや礼金ゼロの物件が広がり、連帯保証人に代わって家賃債務保証会社が回収を担う形が定着しました。国土交通省の登録家賃債務保証業者一覧によれば、任意の登録制度にもかかわらず登録事業者数は2026年8月13日時点で123者に達しています。ここから読み取れる論点は3つです。
第一の論点は、審査基準の緩和を数値として残すことです。米国の記事が突いているのは、緩和が測定されていないという一点でした。日本でも繁忙期に「この条件なら通そう」と現場判断で通したケースが、どの管理システムにも記録として残っていないことがあります。承認区分、家賃比率、勤続年数、保証会社の審査結果を構造化データとして蓄積しておけば、生成AIに月次で読ませて「先月の承認は前年同月と比べてどこが緩んだか」を言語化させられます。まず記録し、次に測る順番が重要です。
第二の論点は、回収より前段に投資するという発想です。担保が薄いなら、損失は回収局面ではなく入居判断の局面で減らすしかありません。ただし日本ではAI審査の扱いに注意が要ります。AIの出力はあくまで参考値であり、最終判断は人が行い、その根拠を説明できる状態にしておくべきです。個人情報保護法の観点からも、入居希望者の同意なく個人情報を外部AIに投入する運用は避けるべきで、この論点はAI審査に説明義務と人間再審査を求める米コロラドの動きや住宅ローン与信AIと代替データの議論とも地続きです。
第三の論点は、原状回復のエビデンスを標準化することです。カリフォルニア州が敷金控除に写真記録を義務づけた流れは、日本の原状回復をめぐるトラブルとガイドラインが求めてきたことと本質的に同じでした。入居時と退去時の写真を、部屋・箇所・日時のメタデータ付きで自動整理し、AIに差分の説明文を下書きさせておけば、精算の説明コストは大きく下がります。日本では2022年12月12日の最高裁判決により、保証会社の無催告解除条項や明渡しみなし条項が消費者契約法10条に該当するとして差し止められており、保証会社任せの強い回収に頼る設計は取りにくくなりました。証拠の質で勝負する方向に寄せるほうが現実的です。
明日から着手できる初動アクション
まず着手すべきは、入居審査の記録項目を1枚のシートに固定することです。承認区分、家賃比率、勤続年数、保証会社名と審査結果、初期費用の実額を並べ、過去12か月分を埋め直すだけでも、緩和の度合いが見えるようになります。
次に、退去時の損失を原因別に分解します。滞納、原状回復費の超過、明渡し関連費用の3分類で半年分を集計し、入居月に紐づけ直すと、どの時期の審査判断が損失を生んだかが追えます。米国の記事が指摘した半年から1年の遅れは、日本でも同じように効いてきます。
三つ目に、写真と契約書類の保管ルールを決めます。ファイル名の規則と保存場所を統一しておかないと、AIに読ませる段階で手戻りが発生します。この工程は郵送物の電子化で業務量を圧縮した賃貸管理DXの事例と同じく、AI導入の前段にある地味な整備作業です。
最後に、AI審査を検討する場合は、社内で「AIが参考値を出し、宅地建物取引士または管理責任者が最終判断する」という手順を文書化してください。判断根拠を説明できない自動化は、宅建業法や個人情報保護法の観点でリスクになります。
まとめ
敷金の縮小と審査の緩和が同時に進むとき、損失は半年から1年遅れて現れます。日本の賃貸管理会社が取るべきスタンスは、AIで審査を自動化することではなく、審査の判断と退去時の損失を記録可能な形にしてからAIに測らせることです。記録が無ければ、緩んだことにも気づけません。
参考文献
- Smaller Deposits, Weaker Renters, and the Risk Building in Multifamily Portfolios(Propmodo)
- 登録家賃債務保証業者一覧(国土交通省)
- 家賃債務保証業者登録制度(国土交通省)
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引用元: Propmodo
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)