オクストは送金明細の郵送を年間6,000通から800通へ減らしました。
賃貸管理DXの効果を、通数と時間で語った事例が公開されました。GMO賃貸DXマガジンが2026年8月27日に掲載した株式会社オクスト(茨城県古河市)のインタビューによると、月500通を超えていた送金明細の郵送は年間約6,000通から約800通へ縮小し、郵送作業に費やしていた年間約200時間が圧縮されました。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が、賃貸管理DXの数字をどう読み、AI活用の前段としてどう位置づけるかを解説します。
賃貸管理DXの実像は「月2回の締めに3名が丸一日」からの脱却
今回の事例で最も具体的だったのは、削減された業務量です。オクストは導入前、送金明細を月500通程度、年間で約6,000通郵送していました。送金明細は月2回の締めがあるため、印刷・封入・宛名確認にスタッフ3名が丸一日かかりきりになることもあり、年間では200時間近くを費やしていたといいます。
導入したのはGMO賃貸DXのオーナーアプリとWeb、および入居者アプリとWebです。運営はGMO ReTechで、電子契約、送金明細の電子化、チャット、掲示板、アンケートといった機能が一つのサービスにまとまっている点が選定理由として挙げられています。個別ツールを課題ごとに積み上げるのではなく、複数システムの管理コストを増やさずにデジタル化を進める判断です。
コスト面は、記事タイトルでは年間180万円の削減とされ、本文では郵送費・封筒代・人件費で年間100万円以上、定期報告書など他の郵送物も含めた体感で300万円近い経済効果があると語られています。金額の内訳は公開されていないため、自社に当てはめる際は通数と単価、作業時間から自前で試算するのが安全です。
入居者対応の変化も具体的でした。修繕相談を写真付きチャットで受けられるようになり、電話だけでは把握しづらかった不具合の状況を初期段階で共有できるようになっています。オーナーとのやり取りでも、見積書をデータで送りチャット上で承認を得るケースが増え、従来は訪問して説明していた工程が短縮されました。

賃貸管理DXが避けられない理由は「管理報酬が上がらない構造」
日本の賃貸管理会社が賃貸管理DXに向かう理由は、収益構造そのものにあります。インタビューでは、建築費も人件費もガソリン代も上がる一方で、管理報酬は家賃が上がらない限り料率が変わらないという指摘がありました。家賃が下がれば管理報酬も連動して減ります。収益を守る手段は、オーナーに料率引き上げを依頼するか、自社のコストを下げるかの二択になり、後者を選ぶならDXが有力な選択肢になるという整理です。
制度面の土台も整っています。2022年5月18日施行の改正宅地建物取引業法により、重要事項説明書や37条書面などの押印が不要となり、電磁的方法での提供が可能になりました。施行内容は不動産ジャパンの解説にまとまっています。送金明細のような法定書面以外の帳票は、もともと電子化のハードルが低い領域です。それでも紙が残っていたのは、制度ではなく運用の慣性が理由だったと言えます。
そして、ここが不動産のチカラとしての本題です。賃貸管理DXは、AI活用の前提条件そのものです。電話と口頭で終わったやり取り、紙で郵送した報告書、担当者の頭の中にある経緯は、生成AIが読める形になっていません。チャットやアプリに乗った瞬間に、問い合わせ内容も対応履歴も検索可能なテキストデータになります。修繕相談の写真とテキストが蓄積されれば、後から一次切り分けの自動化や、頻出トラブルの傾向分析に手が届きます。逆に、紙と電話のままAIツールだけを導入しても、入力するデータが存在しないため成果は出にくくなります。AI導入のROIをどう測るかは、賃貸管理AIのROI算定で整理しています。
興味深いのは、同社が「DXに寄り過ぎない」姿勢も明言していることです。空室のあるオーナーには月1回、満室でも2か月に1回は訪問を続けているといいます。効率化した時間を接点の質に振り向ける設計であり、単なる省人化とは方向性が異なります。
賃貸管理DXからAIへ進むために固めるべき3条件
初動として押さえるべき条件は3つあります。
第一に、出力を紙から電子に寄せることです。送金明細、定期清掃報告書、法定書類のうち、電子化の制約が薄いものから順に切り替えます。オクストの事例では年間6,000通のうち約800通が紙で残っており、紙を希望するオーナーには発行手数料を設定しています。全件を一気に電子化しようとせず、紙を選ぶ人にコストを負担してもらう設計は、移行期の現実解として参考になります。書類の電子化とAI-OCRの組み合わせはAI-OCRによる不動産書類の電子帳簿対応で扱っています。
第二に、やり取りをチャットに寄せて履歴を残すことです。オクストが導入前に抱えていた「担当者が休むと対応が止まる」「折り返し漏れが起きる」という課題は、電話が個人に紐づく通信手段であることに起因します。チャットに移すと、社内メモや対応状況の共有が同じ画面上で完結し、引き継ぎが記録として残ります。この記録が、後にAIが参照できる資産になります。
第三に、効果を金額と時間の両方で測ることです。通数、単価、作業時間、残業時間を導入前後で並べれば、経営判断に耐える数字になります。体感ではなく実測で押さえておくと、次のAI投資の稟議も通りやすくなります。賃貸管理のAI投資回収の考え方は賃貸管理AIの投資回収3初動にまとめています。
あわせて、個人情報の扱いには注意が必要です。入居者やオーナーの氏名・住所・連絡先を含むデータを外部の生成AIサービスにそのまま投入する運用は、個人情報保護法上のリスクを伴います。利用範囲と社内規程を先に決めてから、匿名化や社内限定環境での利用を検討してください。AIの出力はあくまで参考情報であり、最終判断は宅建士や担当者が行う前提を崩さないことが重要です。
まとめ
賃貸管理DXの価値は、郵送費の削減額そのものより、紙と電話に閉じていた情報がデータとして残り始めることにあります。オクストの事例は年間6,000通が800通に、作業時間が年間約200時間圧縮されたという実測値を示しました。管理報酬が構造的に上がりにくい以上、コスト側の改善は経営課題です。まず出力の電子化とやり取りのチャット化で土台を作り、その上でAIに何を任せるかを決める順番が現実的だと考えます。
参考文献
- GMO賃貸DXマガジン|月500通超の送金明細を電子化し年間180万の削減
- GMO賃貸DX 公式サイト
- GMO ReTech|株式会社オクストのインタビュー記事を公開
- 不動産ジャパン|宅地建物取引業法の一部改正等の施行について
- 株式会社オクスト 公式サイト
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引用元: GMO賃貸DXマガジン
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)