米調査で、購入希望者の53%が人を介さない住宅購入に前向きと出ました。
インスペクション報告書をAIに読ませて作った修繕要求リストを持って、買主が交渉のテーブルに座る。米国の仲介現場では、これが日常の風景になりつつあります。HousingWireが2026年6月18日に報じた記事は、消費者側のAI利用が仲介担当者の役割を「情報提供者」から「情報の解釈者」へ押し出している状況を、現場の証言と数字で伝えています。日本の不動産会社にとっても、AIを携えて来店する顧客への応対設計は先送りできない課題です。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入支援100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。
53%と25%のあいだにある溝
数字の並びが示しているのは、消費者の期待と実際の腹の据わり方のズレでした。Veterans United Home Loansが2026年6月に公表した調査では、購入希望者の53%が人の直接的な関与なしに住宅を購入することに抵抗がないと答えています。住宅ローンの助言を得るためにAIツールへ個人の財務情報を提供してよいと答えた層は89%に達しました。
ところが、人の関与なしで購入を最終決済することに「とても安心できる」と答えたのは、回答者の4分の1にとどまります。情報収集の段階ではAIに任せたいが、契約と決済の局面では人に居てほしい。この二層構造が、いまの消費者心理の実像と読めます。
もう1つの数字も見ておく価値があります。Realtor.comが2025年10月に公表した調査では、82%の消費者が不動産の情報収集にAIを使っていました。同調査で、不動産担当者から情報を得ることを「時間の有効活用」と評価した回答者は65.6%。AIから情報を得ることを同様に評価した層は61.9%で、その差は4ポイント弱です。人とAIが、情報源としてほぼ並んだ位置に来ています。
日本の仲介現場が読むべき3つの論点
第1の論点は、AIが出した数字を持ってきた顧客への応対を、属人対応から標準対応へ移すことです。記事では、Leading Edge Real Estateのブローカーオーナーであるリンダ・オコニエフスキが、顧客向けの一連の案内文を書き換えたと述べています。伝えている内容は「AIは調査のためのものであり、判断や評価のためのものではない」という線引きでした。同氏は「AIはほとんどの市場において人件費の見積りが不得手で、地域の商慣習を理解しない」とも指摘しています。日本でも、AI査定額を根拠に価格交渉に入る売主・買主は増えます。査定の推定幅と近隣事例をセットで示し、AIの算出値と自社の査定根拠の差を説明できる状態を作っておくのが実務的です。AI査定の精度をどう見抜くかは、AI家賃査定の精度をMERで見抜くで整理しています。
第2は、業務のうちどこがコモディティ化したかを自社で棚卸しすることです。Alloy Advisorsが2026年6月に公表したレポート「The Home Sale Transaction, Reconsidered」は、仲介手数料に束ねられた業務をAIとソフトウェアが置き換えた部分と、置き換えていない部分に分けています。同レポートの試算では、物件登録・物件紹介文の作成・取引調整といった業務の市場価値は従来1件あたり1,500〜3,500米ドル相当でしたが、AIを使いこなす担当者にとっての限界費用はワークフローソフトの1件10〜30米ドル程度を除けばゼロ近辺まで下がったとされます。一方で交渉、心理面の伴走、地域固有の知識、有資格者としての受託者責任といった業務は1取引あたり2,000〜6,500米ドル相当と見積もられ、これは物件価格に比例しないと結論づけています。
日本の売買仲介手数料は宅建業法上の上限が定められており、米国の歩合構造とは前提が異なります。それでも、置き換わった業務と残る業務を分けて見る視点は共通して使えます。マイソク作成や物件紹介文の執筆に費やしていた時間が縮む一方、価格交渉と物件固有のリスク説明に振り向けられる時間が増える。この配分の変化を、自社の業務時間の実測で捉えておくことをおすすめします。
第3は、顧客がAIに何を聞いているかを先に知る運用です。オコニエフスキが担当者に指示している初動は、買主と売主がAIに最も多く投げている質問を自分で検索してみることでした。加えて、ブラウザのシークレットモードでLLMに「この物件の妥当な価格はいくらか」と尋ね、回答のばらつきを顧客に見せながら、AIが地域文脈を欠いている点を会話にする方法も紹介されています。自社サイトの情報がAIに引用される状態を作る設計とあわせて考える論点で、不動産のAI検索対策(GEO)で扱った可視化の話とつながります。
今週から動かせる初動
まず、直近1か月の反響のうち、AIで調べた内容を持ち込んだ顧客が何件あったかを担当者に聞き取ることをおすすめします。件数を把握していない会社が多く、ここが議論の出発点になります。次に、その顧客が持ち込んだAIの回答で「事実として誤っていた点」を集めます。誤りの型が見えると、標準の説明文に落とし込めます。
そして、AIの算出値と自社の見解が食い違ったときの説明手順を、1枚に整えておくことです。「AIは参考値であり、最終判断は宅地建物取引士が行う」という原則を、根拠の提示方法まで含めて具体化しておく。この準備があるかどうかで、AIを持ってきた顧客との会話が対立になるか、信頼獲得の機会になるかが分かれます。
まとめ
消費者側のAI利用は、仲介担当者を不要にする方向には進んでいません。情報収集はAIへ、判断と決済は人へという二層化が起きているのが実態です。日本の不動産会社が備えるべきは、AIの出力を否定することではなく、地域の文脈と有資格者の判断を上乗せして見せる手順を持つことでしょう。業務の棚卸しと、顧客が投げている質問の把握が、その第一歩になります。
参考文献
- HousingWire|How consumers are using AI and the impact on the role of the real estate agent
- Veterans United Home Loans|AI and Homebuying
- Realtor.com Research|AI and Housing Survey 2025
- Alloy Advisors|The Home Sale Transaction, Reconsidered
著者:齋藤竹紘(株式会社オルセル 編集長/宅建業免許 東京都知事(1)第113520号/AI導入支援100社超/EC支援19年5,000社超のノウハウを不動産×AIに横展開)
※不動産のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社の不動産事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: HousingWire
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)