管理ソフトの不具合による違反の責任は、ベンダーではなく管理会社が負います。
米国の不動産テックメディア Propmodo が2026年9月16日に公開した記事は、賃貸管理の現場で起きたソフトウェア起因のトラブルと、その法的責任の所在を整理しています。米連邦取引委員会(FTC)がGreystarから2,400万ドルを回収した件、賃料設定ソフトをめぐる集団訴訟で27社が合計1億4,100万ドルを支払った件。いずれも支払っているのは、ソフトを売った側ではなくソフトを使った側でした。日本でも賃貸住宅管理業法のもとで管理業者の責務は明文化されており、AIや自動化ツールの導入が進むほど同じ構図が生まれます。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。

「ソフトのせい」が通らなかった米国の賃貸管理事例
米国の規制当局と裁判所は、ソフトウェアの不具合を理由に賃貸事業者の責任が軽くなるという扱いを取っていません。処分も和解金も、システムを運用していた事業者に向かっています。
カリフォルニア州のモバイルホームパークでは、2023年の感謝祭前日にオンライン決済ポータル上で月額923ドルの賃料増額が表示され、翌日の金曜に入居者の口座から自動引き落としされる設定になっていました。運営会社は「設定が早すぎた」としてシステムエラーを主張しましたが、市は入居者に対し、調停が終わるまで支払いを止めるよう助言しています(KTVU)。エラーが本物だったかどうかにかかわらず、条例が規律しているのは「所有者がいくら請求してよいか」であり、その画面を出したのがどのシステムかは論点になりませんでした。
連邦レベルではさらに明確です。2025年12月、賃貸住宅管理最大手のGreystarは、FTCとコロラド州司法長官による訴訟を2,400万ドル(FTCへ2,300万ドル、州へ100万ドル)で和解しました。害虫駆除費、ゴミ回収代行費、宅配受取サービス費、水道光熱の事務手数料といった毎月固定でかかる費用を除いた賃料を広告表示していたとされる件です(FTC)。2024年9月のInvitation Homes(4,800万ドル)に続く、2年で2件目の賃料表示案件でした。
注目すべきは、その1週間後の動きです。FTCは賃貸管理ソフトの提供事業者13社に対し、総額表示を正しく出せない仕様が管理会社側の適正広告を妨げている可能性があるとして警告書を送付しました(FTC)。つまり当局自身が「ツール側にも問題がある」と認識していたことになります。それでもベンダーが受け取ったのは将来の行為に対する警告と、1件あたり最大53,088ドルの民事制裁金という注意喚起にとどまりました。実際に2,400万ドルを支払ったのは運用側です。
賃料設定ソフトをめぐる訴訟はこの構図をさらに鮮明にしました。テネシー州連邦地裁に集約された集団訴訟では、RealPageと並んで大手オーナー・管理会社およそ50社が被告になり、2025年10月に27社が合計1億4,100万ドルで和解。2026年1月にMAAが5,300万ドル(引当金を6,250万ドルに積み増し)、4月にCamden Property Trustが5,300万ドル、5月にはさらに11社が合計2億1,800万ドルで和解しています。ロードアイランド州プロビデンス市は2025年の条例に基づく第一号案件で1日500ドルの過料を積み上げ、フィラデルフィアでは入居者が管理会社を提訴し、3倍賠償または1件あたり2,000ドルの請求が可能とされています。Propmodoはこれらの法令について、ソフトを売った会社ではなく使った会社に届くよう書かれていると指摘します。
システムの誤作動が、意図しない訴訟そのものを生んだ例もあります。バージニア州アレクサンドリアでは、管理会社が家賃を支払済みの市議会議員に対して不払いを理由とする明け渡し訴訟を提起しました。会社側は法廷でシステムの不具合が申立てを自動生成したと認め、訴えは取り下げられましたが、明け渡し訴訟が受理され期日まで入っていた事実は、管理会社の名前で残りました。
日本の賃貸管理業者に置き換えたときの論点
日本でも、管理システムの誤設定による誤請求や誤った督促の責任は、賃貸住宅管理業者と貸主に戻ってきます。米国のように高額な制裁金制度はありませんが、監督と説明責任の枠組みはすでにあります。
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)は令和3年6月15日に全面施行され、自己所有物件を除く管理戸数200戸以上の事業者に国土交通大臣への登録を義務づけています。あわせて営業所または事務所ごとに業務管理者を1名以上選任すること、オーナーに対して管理受託契約の締結前に重要事項説明を行うことも義務です(国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト)。業務管理者が置かれている以上、誤った家賃改定通知や誤請求について「システムが自動で出した」という説明は、監督官庁にもオーナーにも通りにくい性質のものです。
広告表示の論点はFTCの13社への警告とほぼ同じ構図で日本にも当てはまります。宅地建物取引業法第32条は誇大広告等を禁じており、不動産の表示に関する公正競争規約は月額費用の表示ルールを定めています。ポータルサイトへの一括出稿ツールやAIによる募集原稿生成が、共益費や駐車場代などの固定費を落とした月額を出力した場合でも、出稿名義は自社です。ツールの仕様上そうなった、という説明は表示責任を移しません。ここはAI原稿生成を導入した店舗ほど確認頻度を上げたい部分で、AIが読んだ書類の真偽を誰が決めるのかで触れた審査の論点とも地続きです。
もうひとつが、全戸に一括適用される設定の怖さです。手作業なら1件の入力ミスは1件で止まりますが、管理システムでは誤った共通設定が対象全戸に同時展開されます。自動引き落とし金額、更新料の計算式、一斉督促の条件。いずれも1つの設定が数百戸に波及する構造で、入居者か行政が気づくまで誰も気づかない点が米国事例と共通しています。入退去の実務をシステム側に寄せている事業者ほど、入退去まわりのシステム更新と同じ温度感で設定変更の統制を見直す価値があります。
今週から着手できる3つの備え
第一に、全戸へ波及する設定変更に人のレビューを1回挟むことです。賃料改定、共益費の変更、自動引き落とし金額の書き換え、一斉督促の条件変更。この4種類については、実行前に影響戸数と変更前後の差分を一覧で出し、業務管理者または責任者が承認してから流す運用にします。件数が出るだけで、桁違いの誤設定はほぼ止まります。
第二に、募集広告の月額表示を実データと突合することです。ポータル掲載中の物件から無作為に20件ほど抽出し、賃料、共益費、駐車場代、その他の月額費用が表示に漏れなく反映されているかを人の目で照合します。生成AIで原稿を作っている場合は、生成元のフィールド定義そのものに欠落がないかまで遡って確認します。
第三に、ベンダー契約のSLAと免責条項を読み直したうえで、それが行政や入居者からの請求を止めるものではないと前提を置くことです。契約はあくまで自社とベンダーの間の話で、処分や賠償請求が向かう先を変えません。実務で効くのはむしろログの保全で、いつ・どの設定が・誰の操作で変わったかを後から提示できる体制があるかどうかが、誤りが起きた後の説明コストを大きく左右します。設定変更履歴とオペレーター情報を最低2年は追える状態にしておきたいところです。
まとめ
自動化が進むほど、誤りは速く広く伝播します。そして責任の所在は動きません。米国の事例が示しているのは、賃貸管理ソフトやAIの導入判断で問うべき質問が「どれだけ手間が減るか」だけではないということです。誤った設定が何戸に波及し、誰がそれを止め、後からどう説明できるか。この3点を調達段階で確認できる事業者は、通知が届いてから気づく事業者とは別の立ち位置に立てます。
参考文献
- Propmodo「When Property Management Software Fails, the Landlord Still Pays」
- FTC「Greystar Agrees to Pay $24 Million and Stop Deceptive Advertising Practices」(2025年12月2日)
- FTC「FTC Sends Warning Letters to 13 Property Management Software Providers Nationwide」
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」
- KTVU「Petaluma mobile home park rent doubled, mistakenly set to auto-debit」
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引用元: Propmodo
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)