米Compassと北西部MLSが16か月の訴訟を和解し、最長21日間の非公開先行販売が解禁されました。
不動産テック大手のCompassと、ワシントン州のNorthwest Multiple Listing Service(NWMLS)が、16か月続いた訴訟を和解しました。NWMLSは2026年9月4日から「First Look」という新しい物件ステータスを導入し、最長21日間、市場公開日数や価格変更を一般に表示しないまま内見・オープンハウス・申込受付を行える運用を認めます。物件情報を「いつ・どこまで・誰に公開するか」を売主が選べるようにする流れが、業界団体側の譲歩という形で確定した格好です。本記事は、宅建業免許(東京都知事(1)第113520号)を保有し、AI導入コンサル100社超の実績を持つ株式会社オルセル(不動産のチカラ運営)が解説します。日本のレインズ運用と囲い込み議論に引き寄せて、3つの示唆を整理します。

何が起きたか:First Lookという21日間の非公開窓
結論から書くと、今回の和解の核心は「非公開期間を21日まで公式ルールとして認めた」ことです。Propmodoの報道によれば、First Lookステータス中の在庫日数や公開前の価格調整はNWMLS会員には内部的に見えるものの、一般には公表されません。売主はFirst Look中の物件をIDXサイト(会員ブローカーが自社サイトに物件を表示する仕組み)に載せるかどうかも選べます。
経緯は2025年4月にさかのぼります。Compassは、NWMLSが競争制限的な運用を行い、売主の選択を妨げ、さらに報復としてCompassのIDXフィードを一時停止したとして提訴しました。NWMLSは2025年6月に却下を申し立てましたが、2026年3月に裁判所が却下を認めず、同年4月にはNWMLSが反訴に踏み切ります。反訴の主張は、Compassの三段階マーケティング戦略がワシントン州消費者保護法に反する、情報隠蔽の仕組みだというものでした。ワシントン州は2026年6月に非公開物件を制限する州法も成立させています。それでも5か月後にNWMLS側が和解に応じました。
和解には物件ステータス以外の条件も含まれます。10月15日までに、NWMLSデータを使うポータルやサイトは、問い合わせボタンの隣に元付ブローカーの社名と連絡先を目立つ形で表示しなければなりません。同じ期日までに、物件写真へのMLSによるウォーターマーク付与も停止します。11月15日までには、登記上の物件表示やFIRPTA書類、権原の予備調査報告、測量図、リセール証明などの補助データをブローカー側のシステムから参照できるようにする必要があります。
日本の不動産事業者にとっての3つの論点
日本の読者にとって最も重要なのは、この件が「情報公開の是非」ではなく「情報の帰属とタイミングを誰が決めるか」の争いだという点です。論点は3つに整理できます。
第一に、日本のレインズ運用との距離です。日本では専任媒介で7日以内、専属専任媒介で5日以内のレインズ登録が宅建業法上義務づけられており、米国MLSのように「登録はするが公開は遅らせる」という設計上の自由度がそもそも小さい構造です。国土交通省は囲い込み対策としてレインズの取引状況ステータス表示を厳格化しており、他社への物件紹介を不当に断る行為は監督処分の対象という整理が進んでいます(施行時期と処分基準の詳細は要確認)。米国の潮流をそのまま「日本でも非公開販売が認められる」と読むのは誤りで、むしろ日本は逆方向に締めている、というのが実務上の理解です。
第二に、元付表示とウォーターマークの扱いです。今回の和解で、ポータル側に元付ブローカーの社名と連絡先の明示が義務づけられた点は、日本の物件ポータル運用にも通じる論点を含みます。日本でもポータル経由の反響が誰の顧客になるのかは長年の争点で、掲載料を払っているのは元付とは限りません。写真の権利帰属についても、撮影コストを負担した側と、それを配信するプラットフォーム側の利害は一致しないことが多いです。
第三に、AI検索・AI査定との関係です。First Lookのような非公開期間が広がると、公開データから在庫日数や価格改定の履歴が欠落します。AI査定や自動相場推計は公開履歴を前提に精度を出しているため、非公開取引が増えるほど推計の土台が薄くなります。関連する視点はレインズのAI分析活用やMLSのデータライセンス動向でも整理しています。
今後の動きと、日本の事業者がいま取れる初動
他のMLSも同じ方向に動いています。南カリフォルニアのCLAWは2026年5月にIDXポリシーを改定し、会員限定で共有できるMLS Exclusiveステータスを新設しました。在庫日数と価格履歴は成約まで開示されません。中部大西洋岸をカバーする大手のBright MLSは柔軟な事前マーケティングルールを持ち、今年Compassと提携しています。Bright MLSの調査では、2024年から2025年の事前公開物件のうち3社で45パーセントを占め、1社だけでオフィス限定物件の4分の1超を占めたとされています。市場の集中度がそのまま論争の激しさに直結している構図です。
一方で、抵抗はMLSではなく州議会から出てきています。コネチカット州が物件情報の広範な公開を義務づける法律を最初に成立させ、ニューヨーク州でも同様の法案が審議中です。CompassのRobert Reffkinは今回の結果について「MLSは直接の競合同士の集まりであり、その競合に対して競争の方法を指示している」と述べ、独占禁止法上の問題だという主張を維持しています。他方でNWMLSのJustin Haagは、First Lookは会員の要望から生まれた運用の近代化であり、開かれた市場と公正な競争を守るものだと位置づけました。双方が勝利を主張している時点で、根本の対立は解けていないと見るのが妥当です。
日本の事業者がいま取れる初動は3つあります。ひとつは、自社の媒介契約における情報公開方針を文書で説明できる状態にしておくことです。売主に対して、いつレインズに登録し、どのポータルにどの範囲で出すのかを書面で示せば、囲い込みを疑われるリスクは下がります。ふたつめは、自社が撮影・作成した物件写真と原稿の権利関係を、ポータル各社の規約と突き合わせて確認しておくことです。みっつめは、AI査定や相場ツールの出力を顧客に見せる際、参照データの範囲と限界を必ず添えることです。AI査定はあくまで参考値であり、最終判断は宅建士が行うという線引きを明示しておけば、非公開取引が増えた局面でも説明責任を果たせます。
まとめ
米国では、物件情報の公開タイミングを売主が選ぶ方向へルールが動き始めました。日本はレインズ登録義務と囲い込み規制で逆方向に締めており、制度をそのまま輸入することはできません。ただし元付表示、写真の権利、AI査定の参照データという3つの論点は日本にも共通します。自社の情報公開方針を文書化し、AIの出力には必ず前提と限界を添える運用が、いま最も現実的な備えになります。
参考文献
- Propmodo「Compass Won Its Pre-Marketing Fight and Other MLSs Are Watching」
- Real Estate News「Compass, NWMLS settle 16-month legal battle」
- HousingWire「Compass, Rocket, Redfin urge MLSs to allow seller-directed pre-marketing」
- RISMedia「Compass Pressures MLSs Who ‘Double Down’ on Premarket Restrictions With Fiery Open Letter」
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引用元: Propmodo
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / EC支援19年5,000社超・AIコンサル100社超 / 宅建業免許 東京都知事(1)第113520号)